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森林総合研究所の岡本朋子さんは、植物と昆虫の送粉共生系*の研究をしています。前回の「【1】私がリケジョになった理由」では、九死に一生を得た岡本さんが、植物の研究に出会い、その道を志すエピソードをご紹介しました。今回は現在、取り組まれている研究内容をリポートします。

 

vol.1 私がリケジョになった理由

 
 

絶対的なパートナー、浮気はしません

多くの昆虫が花を訪れる目的は、蜜を吸うため、幼虫に与える花粉団子を作るため。結果的に、昆虫の身体には花粉がついて、知らず知らずに受粉のお手伝いをしています。しかし、ハナホソガは “花の受粉をするために” せっせと働くというのです。
 
「ハナホソガは植物の雄花にいって、口でウォ~!オリャー!って、花粉を集めるんですよ。今度はそれを雌花のところに持っていって、雌花の柱頭に、またオリャー!って、花粉をつけるんです」
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産卵するハナホソガ(写真提供:岡本朋子さん)
 
― なぜハナホソガは受粉に協力的なのですか?
 
「ホソガは自ら積極的に花粉を取りに行き、自ら雌花に運ぶ、能動的送粉をするポリネーション(授粉)様式を持っています(虫からみた場合は、受粉ではなく“授粉”となります)。ハナホソガは花粉を雌花に授粉させた後、同じ雌花に卵を1個だけ産みます。そして授粉させてできた実が、幼虫のエサになるんです。1匹の幼虫が実を食べ尽くすことはないので、半分はハナホソガの取り分、もう半分は植物の種子として残るという仕組みです」
 
意図的に受粉させて収穫物を子どもに与える・・・これは、もはや農業と呼べるでしょう。幼虫もまた、実を食べ尽くすことなく、次世代へと植物の種子を残す協力者ということになります。
 
 
― ちなみに授粉後に産卵するということは、花粉を運ぶのはメスだけ?
「もちろんメスだけです!オスは植物の上でボ〜っとしているところをよく目撃します(笑)」
 
…なんと!オスのホソガめ~~~!
 
 
― 運命共同体の共生関係は、ハイリスクなのでは・・・?
 
「そうですね。かなりハイリスクですね。コミカンソウ科の中でも500種以上が、大体決まったパートナーを持っていて、ハナホソガによって花粉を運搬してもらっています。基本的には1対1ですが、例外的に2種類のホソガが1種類の植物を訪れることもあります。ハナホソガ側から見れば、1種の植物しか利用しないことが多いですね。繁殖を互いに1種 対1種で依存しあっている、植物と昆虫の 「あなたなしでは生きられない」 状態ですね」
 
・・・ということは、ハナホソガが植物の種類を間違えてしまったら死活問題ですね!
 
 
 

見た目が地味なら、匂いで猛アピール!

岡本さんは、様々な植物と昆虫の「送粉共生」に関わっている化学物質を明らかにすることで、決まった相手を選び出す仕組みを明らかにしようとしています。
 
― ハナホソガは、何を頼りにパートナー植物にたどり着くのですか?
 
「ハナホソガの立場なら、同じところに似たような植物が何種類も生えていたら、大変ですよね。なのに、どうして間違わないのか?たとえば、蛾は夜行性で、視力もあまりよくないです。なので、スズメガに花粉を運んでもらうカラスウリは、白い花弁が広がっていて夜でも目立つ形をしています。でも、ハナホソガの相手、コミカンソウ科の植物は見た目がすごく地味で、え?これが花?という感じです」
 
vol.2-2カラスウリ
カラスウリ(ウィキメディア・コモンズ (GFDL) より)
 
vol.2-3 キールンカンコノキの花 (開花中)
開花しているキールンカンコノキの花(写真提供:岡本朋子さん)
 
 
「見た目が地味なコミカンソウ科が、どうやって昆虫を呼んでいるのかな?と考えると、花の匂い、つまり嗅覚情報で、虫に訴えているんじゃないかと。最近投稿した論文では、花の匂いが虫を呼ぶための広告として重要な役割を果たしているだけではなく、昆虫との関わりで進化してきたことを報告しています」
 
次回は、岡本さんの最近の研究によって明らかになった花の “匂い戦略”について詳しくお伝えします。
お見逃し無く!


バックナンバー

 
vol.1 私がリケジョになった理由
 


【森林総合研究所とは】
独立行政法人森林総合研究所は、森林・林業・木材産業に関する総合的な研究機関。
森林を育て、有効に活用するため、微生物、植物、昆虫、動物を含め、環境の保全から資源の活用まで幅広い研究が行われている。
公式HPはこちら:http://www.ffpri.affrc.go.jp/index.html

 
岡本さんプロフィール

profile

岡本 朋子(おかもと ともこ)さん
日本学術振興会特別研究員 PD/
独立行政法人 森林総合研究所 森林昆虫研究領域

 
大学時代の専攻:京都大学大学院 人間・環境学研究科 相関環境学専攻
オフの日の過ごし方:サイクリング、編み物、消しゴムはんこ作成など
趣味:貝拾い、珈琲、料理

 
 
ライター プロフィール

profile

堀川 晃菜(Horikawa Akina)
 
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
同じことでも伝える人や伝え方によって、生み出されるものが違うからこそ、
究極のコミュニケーションって何だろう、と思います。企画力、表現力を磨きたい。
 
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。