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「今日はちゃんとお化粧をしてきました!」 と笑顔がキュートな岡本朋子さんは、化学生態学の研究者。
リケジョになるまでの驚愕エピソードとともに、植物と虫の知的で魅惑的な世界についてお話を伺いました。
研究の裏話、後輩リケジョへのメッセージも交えて、全4回シリーズでお送りします。

 

九死に一生!どうせ死ぬなら・・・

― リケジョになった転機はありますか?
 
「私の場合はちょっと変わっているので、参考にならないかもしれません・・・小さい頃から生き物好きだったわけでも、理系少女だったわけでもないです。むしろ生き物嫌いでした!
 
そんな岡本さんは、高校卒業後、自ら学費を稼ぐため一度社会人に。それなりにお金も稼げるし「このまま働いていてもいいかな・・・」と、ぼんやり思い始めていたある日。突如、耳の下の首筋あたりに激痛を感じ、病院へ行くと、耳下腺に腫瘍の疑いがあると告げられ、手術をすることに。いざメスを入れてみると、なんと原因は寄生虫だったことが判明・・・!衝撃を受けるも、腫瘍でなくて良かったと、術後の入院生活を送っていたところ・・・
 
「意識があるのに、急に息ができなくなって、息が止まったんです。このまま死ぬかもしれない・・・と思いながら意識が薄れていきました」
 
なんと、喉の傷が炎症をおこし、気道が塞がりかけて窒息状態に。もしも、看護師さんが偶然通りかかっていなければ・・・
 
「この体験をして、死ぬんだったら、自分の好きなことをやってから死のう!と思いました。それだったら大学に入って、自分が面白いと思えるものと出会いたいと決意しました」
 
 

“植物の賢さ”の虜になった

こうして興味の対象を求め、国立大阪教育大学へと入学した岡本さんを魅了したのは、ランのポリネーション(花粉交配、花粉媒介)の話でした。
 
― 運命を変えた大学の講義は、どんな内容だったのですか?
 
「ランの花の中には、メスの蜂のフェロモンと全く同じ物質を出してオスの蜂をだまし、花粉を運ばせるものがあります。これは、オス蜂が交尾のためにメスを抱きかかえて運ぶ習性を利用したもので、オス蜂は「へっへ~♪メスGET~♥」って運ぼうとするんですけど、途中で、ん?これ・・・偽物じゃないか!って気付きます。でも、すでにその時には背中に花粉がまんまと付けられているんです。それでもまた、同じ植物の別の個体にだまされ・・・を繰り返して受粉が成立していきます。」
 
・・・なんと健気なオス蜂よ
 
「大学の講義でこの話を聴いて、植物はすごい!と驚きました。そうなると、なんでこうなっているんだろう?という疑問から離れられなくなったんです」
 
「今まで、そこに咲いている植物がどういう風に生きているかなんて、全然想像したことがなくて、どう進化してきたかも想像したことがなく、外来種か在来種かも気にしていなかった。だけど、意識してみると、これまで何気なく目にしていた身近な植物が、まるで別の生き物に見えてきました
 
植物は脳がないにも関わらず極めて”知的な“生存戦略をとっているのです。すっかり植物の虜になった岡本さんは「植物の生態学ならば京大が一番」との恩師の助言を受けて、大学院より京都大学へ進学し、研究者への道を歩み始めました。
 
 

あなたなしでは生きられない!「相利共生系」

生物間の関係性は “食べる・食べられる” だけではありません。岡本さんは、特に植物と昆虫の相利共生関係、中でも、植物が昆虫に花粉を運んでもらう「送粉共生系」をメインに研究をしています。
 
― 花粉を運ぶといえば、研究対象はミツバチとか?
 
「キノコバエとか、ハナホソガとか、ちょっとマニアックな生き物を対象としています」
 
vol.1-2キノコバエ
コチャルメルソウを訪れるキノコバエ(写真提供:岡本朋子さん)
 
 
vol.1-3ハナホソガ
キールカンコノキを訪れるハナホソガ(写真提供:岡本朋子さん)
 
 
「一般的な植物は、花粉を運んでもらう虫が何種類かいるんです。蜂がやってきたり、蜂のなかでも別の種類の蜂が来たり、ハエが来たり、アブが来たり。でも、コミカンソウ科に属する植物は、特定のハナホソガにしか花粉の運搬を依存していません。
 
つまり、ハナホソガが絶滅するとコミカンソウ科の植物も繁殖ができなくなりますが、“相利共生”というからには、ハナホソガも植物から利を得ているのです。かなりリスキーとも言えますが、植物と昆虫は、どのような “協定” を築いているのでしょうか。次回は、岡本さんの研究成果について、より詳しくご紹介していきます。どうぞお楽しみに!
 
 ▶ 【vol.2 あなたなしでは生きられない】の記事はこちら
 


【森林総合研究所とは】
独立行政法人森林総合研究所は、森林・林業・木材産業に関する総合的な研究機関。
森林を育て、有効に活用するため、微生物、植物、昆虫、動物を含め、環境の保全から資源の活用まで幅広い研究が行われている。
公式HPはこちら:http://www.ffpri.affrc.go.jp/index.html

 
岡本さんプロフィール

profile

岡本 朋子(おかもと ともこ)さん
日本学術振興会特別研究員 PD/
独立行政法人 森林総合研究所 森林昆虫研究領域

 
大学時代の専攻:京都大学大学院 人間・環境学研究科 相関環境学専攻
オフの日の過ごし方:サイクリング、編み物、消しゴムはんこ作成など
趣味:貝拾い、珈琲、料理

 
 
ライター プロフィール

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堀川 晃菜(Horikawa Akina)
 
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
同じことでも伝える人や伝え方によって、生み出されるものが違うからこそ、
究極のコミュニケーションって何だろう、と思います。企画力、表現力を磨きたい。
 
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。