前回(理系のための就活講座(1)~自己分析編~)は、自分の価値観を掘り下げてみることで、自己理解を深め、自分の価値観に合った仕事や会社を選びましょうということをお伝えしました。

仕事探しには、もうひとつ大切なことがあります。それは、就こうとしている「仕事」と自分の「能力」や「適性」との相性です。

「適材適所」という言葉があるように、「仕事」に就いて「はたらく」ということは、自分の能力が発揮できてこそ、やりがいや生きがいを感じられますよね。あなたは、どんなことが得意でどんなことが苦手ですか? 自分の強み弱みを整理することで、内定を得やすい仕事が見えてきます。また、応募書類や面接の場で、相手に伝わりやすい、説得力のあるアピールができるようになります。

これからご紹介する手法を活用して、ご自身の中にたくさんの「強み」を見つけて、自信を持って就活を進めていただけたら嬉しいです☆

典型的な質問とNG回答例

▼ 応募書類や面接で聞かれる典型的な質問
1)あなたの強みは何ですか?

2)得意なことは何ですか? 当社に入ったらどのような仕事をしたいですか?

3)なぜ、当社を(○○という職種を)志望するのですか?

 

▼ NG解答例
1)あきらめない粘り強いところです。

2)手を動かすのが好きだから、研究職としてずっと実験をしていきたいです。

3)御社は研究開発が盛んな点に魅力を感じておりまして、大学院の研究で鍛えた論理的思考力を活かして、開発職として活躍したいです。

なぜこれらの回答がNGなのでしょうか。採用担当者の感想は次のようなものです。

1)根拠となる具体的な事例がないため、説得力に欠ける。

2)「好き」と「得意」を混同している。研究職という職種に対する理解も浅いようだ。研究職は実験だけしているわけではない。

3)理系の院卒であれば論理的思考力があるのが当然。それに 1)と同様、裏付けとなるエピソードや具体事例がないと本当に論理的思考力が身についているかどうかが判断できない。

また、当社のどの事業分野で活かせると考えたのか、自分なりの仮説で構わないので、論理的な説明が欲しい。

つまり、自分の中で漠然と「ここが強みだ、アピールできそう」と感じているだけでは、企業の採用担当者の印象に残る応募書類や面接での受け答えができないのです。

採用担当者に「ぜひ当社に入社してほしい」と感じてもらうためには、

①自分の好きなこと・得意なことを根拠(具体的事例)と共に語る(自己PR

② ①であげた「好き」で「得意」なことが、どのように応募先企業で活かせると考えているか自分の言葉で話せる(これが一般に「志望動機」と呼ばれる)

ことが大切です。

とはいえ、具体的事例といっても、すぐには思いつきませんよね?

そこでオススメするのが「自分史」です。熱中したことや楽しかった出来事を思い出していくと、それがおのずと長所を裏付ける事例になります。そうやって自分の人生を振り返って強みが確認できたら、次のステップで、強みと弱みを世の中の動きと照らし合わせながら、自分が活躍できそうな場所(就職先の有力候補)はどこかを考えていきます。

自己分析もここまでできると、後に行う「企業研究」と効果的につながり、「自己PR」や「志望動機」が採用担当者に説得力を持って伝えられるようになります。また、自分自身が心から納得してその企業を受け、面接でも本心を語ることができるようになります。


「自分史」で自分の強みを振り返る

自分の強みを具体例をもって語れるようにするために、過去の自分を振り返ってみましょう。

下の図は、人生のモチベーショングラフと呼ばれるワークシートで、キャリアカウンセリングや企業研修の場でよく利用されるものです。横軸が時間(年齢)、縦軸に満足度(モチベーションや、良かった/悪かった)を取り、曲線で表現します。子供のころからこれまでの経験を、嬉しかったこと・頑張ったことを中心に振り返りながら描いてみてください。

人生のモチベーショングラフの例

 

充実度の高い時期に取り組んでいたことが、自分の得意分野であることが多いです。グラフの下に、具体的な出来事を書けるように記入欄があります。子供のころになりたかった職業や、好んでやった遊びや趣味(習い事や部活)も思い出して記入してみましょう。

部活や運動会・文化祭で率先して行った役割にも、あなたの得意が表れています。大学は理系に進んだけれど、実は絵を描くことも好きだった、など色々思い出せるとよいです。

大学受験や研究室選びの際に、候補に挙げたものの、迷った末に選ばなかった学部や研究分野も書き出してみましょう。忘れかけていた過去の自分をできるだけ復活させることがポイントです。
 
思いつく限りの振り返りが出来たら、シートの右側の欄に自分の好きなこと・得意なことを箇条書きで整理してみます。そのうえで、向いていると思われる仕事と業界の候補もメモしておきましょう。

ここで大切なのは、書き出した仕事や業界はあくまでも「候補」だということです。
就活セミナーや企業説明会などいろいろな情報に触れることで、追加削除しながら変わっていきます。就活(特に新卒の就活)では、狭い専門分野にこだわりすぎると、応募できる企業が限られてしまうので、ある程度幅をもって就活するのが普通です。

このワークは、自分の長所を具体的事例とともに思い出して整理できるとともに、応募先企業の選択肢を増やし、自分の可能性を広げることにも役立ちます。

SWOTで強み弱みを分析する!

今度は、SWOTと呼ばれる分析手法を使って、自分の得意不得意、今後活躍できそうな分野を整理してみましょう。企業が自社の戦略を練る際などに使う定番の手法ですが、個人にも適用できます。それぞれの欄の意味は「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」で、頭文字をとってSWOT分析と呼ばれます。

もともとは、特定の企業の現状を分析し、投資するか否かや、成長の方向性などを考えるためのフレームワークです。なので、みなさんが応募する企業を検討したり、志望動機を考える際の企業研究にも活用できます(詳しくは後日公開の「理系のための就活講座 企業研究編」へ)。

自己分析で整理したシートと、各企業のSWOTを並べて検討すると自分に合う企業かどうかが見えてきますし、また実際に応募する際にも「この企業にはどのような自己PRをすると説得力が増すのか?」が明確に見えてくる、まさに一石二鳥のフレームワークです。

SWOT分析シート
強み……今までの経験から得た知識、技術、考え方、習慣 = 得意なこと
弱み……苦手意識をもっていること。
機会……技術の進歩や社会の動き(政治や経済、顧客のニーズ)を見たときに、自分が活躍できそうだと思われる分野や役割(職種)。
脅威……技術の進歩や社会の動きを見たときに、自分にとってリスクとなりそうな事柄。

まずは自分について。上段の「強み」と「弱み」を記入していきましょう。

強みの部分は先に紹介した自分史ワークをしておくと、すんなり書けると思います。弱みの部分は、普段自覚していることを書き出してみた後、親や親友にも聞いてみると、より客観的に自分が把握できます。短所を確認するのは嫌な作業ですが、面接で短所を聞かれることがあるので、飛ばさずにきちんと書き出してみてください。

苦手だったけれど、色々トライして人並みにできるようになったことは、むしろ強みにいれておきます。どのように取り組んでできるようになったのか(これを成功体験といいます)を文章化しておくと、素晴らしい自己PRの材料になります!

また、学生時代の勉強・研究についても「スキル」として「強み」の欄に記入しておきましょう。学生のみなさんは、「よい結果が出ていないのでアピールできない」とおっしゃる方が多いのですが、学卒や修士課程では、研究の成果は実はあまり求められていません(もちろん成果があれば素晴らしいのですが、修士の1年で何らかの研究成果を出せることのほうが少ないことは、企業も心得ています)。

それよりも「与えられた研究テーマをどれくらい理解して自分のものとして取り組んでいたのか」や「研究中にどのような壁にぶつかったか」また「それをどのように考え、取り組んで乗り越えたか」を知りたいと思っています。つまり、「研究に対する取り組み姿勢や研究を通じて身についた考え方」が最大のアピールポイントとなります。

次に下段ですが、「機会」の欄に、自分の強みが活かせそうな業界や職種を列挙していきます。同時に、技術の進歩や世の中の動向(少子化など)で、今後自分に不利になりそうな要素を「脅威」の欄に埋めていきます

とはいえ、世の中にどんな業界があって、今後どのように動いていくかについては、まだまだ分からないことも多いと思います。現時点ではわかる範囲で(または想像や仮説で)構いません。自信を持って書けることが少ないということが分かればOKです。その気づきをもとに、今後は新聞・ネットなどで経済や政治、産業分野の動向などを見ていくようにしましょう。

「日々流れてくる情報が多すぎて、とてもチェックしきれない」と感じる方もいるかもしれませんが、焦らないで大丈夫です。前回と今回のワークを通じて、自分の価値観や強み弱みが徐々に明確になってきていることと思います。それを念頭に置きながら、「この業界やこの企業は、自分の価値観・興味関心・得意なことが活かせるだろうか?」「この技術動向や政治判断は自分の持っているスキルや目指していることにどう影響を与えそうか?」という視点から情報を読み解くようにします。

そうすればおのずと、深堀りするべき情報なのか、概要だけ知っておけばよい情報なのかの判断がつくようになります。

弱みの取り扱い方──欠点も発想の転換で長所に変換!

ここまで、「就活でアピールできる自分の強みの探し方」を中心にお話してきました。ですが前述したとおり、面接の頻出質問には「短所は何ですか?」というものがあります。欠点のない人はいません。聞かれたら素直に答えてよいです。ただし、短所を認識しているだけでは不十分。その短所をカバー(克服)するためにどのような努力をしてきたのかをセットで答えて初めて、就活面接で合格点を得られる回答となります。

下の回答例のように「過去の失敗から学んで今ではだいぶ克服できている」というような答え方もひとつの方法です。ただし、短所を過去形で語るという小手先のテクニックの話ではありません。

たとえ現在進行形で自分が苦労している弱点であっても、それを認識し、真摯に取り組んでいる姿勢が、面接官に好印象を与えるのだということを忘れないでくださいね。

(面接官)「短所は何ですか?」
(私)「計画性のないことです。(以上)」
(面接官)「そうですか。…………(沈黙)」
(心の中)うーん。スケジュール通り仕事を進めてもらえないと困るなあ……

合格点の回答例は以下の通りです。

私は、興味がわいたことにすぐ取り掛かるのですが、結果、計画を立てずにどんどん進めてしまうようなところがありました。そのため、学部の卒業研究で、提出日ギリギリになって、別の実験データも必要だったことが発覚する、という痛い経験をしました。そこで修士課程では、まず全体の計画と、かかる時間の見積もりをざっくりとし、その後もポイントポイントで進捗と計画がどれくらいずれているのかを確認する癖をつけました。同時に、当初立てた仮説が外れた場合の第二第三の選択肢と、それにかかる時間も考慮に入れて計画を立てました。その結果、余った時間で追加のデータも準備することができ、締め切りに焦ることなく修論を作成することができました。

(面接官の心の中)
失敗から学んで成長できる人なら安心だね。ところでどんな卒研テーマだったっけ? 修論は……?(とエントリーシートを見返して)なるほど、このテーマ、確かに難しいよね、もっと詳しく聞いてみたい!

と、会話が盛り上がる方向に進んでいきますね。

また、発想を転換してみることも有効です。「短所と長所は表裏一体」という言葉があるように、一般的に長所と考えられている特性も、行き過ぎると短所になることありますよね? たとえば上の事例は「スケジューリングが苦手」という短所ですが、一方で、すぐに行動に移せる「行動力がある」人とみることもできます。

つまり一般的に短所と思われている特性も、発想の転換により長所と捉えなおすことができます(カウンセリングや教育現場などでリフレーミングと呼ばれている手法です)。

 

リフレーミングの例

自分では短所と思っていたことも、発想の転換で長所に変換できたら、その長所が最大限に生かせる仕事(職種)は何か? を考えてみましょう。意外な職種が自分に向いていることが分かるかもしれません。前述のSWOTの「強み」と「機会」の欄にも書けることが増えましたよね!

アセスメントはほどほどに

より客観的に自分を理解するために、就活サイトや転職サイトで提供されているアセスメントツール(適職診断サービス)などを活用したいと考える方も多いと思います。

これらのツールは、心理学や発達論などの理論をベースに構築された職業適性検査で、ある程度信頼性のある結果を得ることはできます。ですが、ツールの質問項目が、あなたのすべてをカバーできているわけではありません。結果はあくまであなたの一部であってすべてではないのです。

また、人間は常に成長し変化する生き物です。数年後に同じアセスメントを受けてみると結果が変わっていることは珍しくありません。ですので、結果を固定的なものと捉えたり、盲信することはしないでくださいね。アセスメントツールはうまく使えれば就活の有効な参考材料にはなりますが、けっして進路を決定する際の決め手にはならないです。

人は変われる。今の自分では無理そうでも希望は捨てないで!

最後に、自己分析においてとても大切なことをお伝えしようと思います。

残念ながら志望している職種で求められる要件や適性と、自分が合わないことが分かった場合、どうすればいいのでしょう? がっかりしたかもしれませんが、落ち込みすぎないでください。その仕事を目指すために、自分のどういうところを課題として取り組めばいいのかが明確になったと考えて、今後の能力開発に役立てればよいのです。

人には色々な可能性が眠っています。こうありたい自分に向かって、あきらめずに一歩一歩進んでください。新卒の就活で希望の仕事に就けなくても、努力を続けていれば数年後、同じ会社でなのか転職なのかはわかりませんが、再度チャレンジする機会が得られることも多いです。

社会の変化にともなって、企業も日々変わっていきます。人も企業も変化するもの。はたらくとは、変化していく世の中に、自分が活躍できる場所を探してマッチングさせていく(=自分自身を成長させていく)こととも言えます。

一人ひとり違う個性を持ち、誰一人同じ人間はいないのですから、仕事選びに正解はありません。自分という唯一無二の存在を世の中でどう生かしていくか、色々な要素を考慮しながら自分で選択していけるよう、リケラボはこれからも応援していきます! 第3回はこちら

 

▼リケラボの就活応援記事
【保存版】理系のための就活講座(1)~自己分析編~ 何をしたらよいかわからない人へ、簡単で効果的な3つのワークをご紹介!
理系のための就活講座(2)~自己分析Part2:自分の強みを発見するワーク 面接NG回答例付~
理系のための就活講座(3)書類選考に通る応募書類の書き方
理系のための就活講座(4)就活を成功に導く企業研究の方法【前編】
理系のための就活講座(5)~就活を成功に導く企業研究の方法~【後編】

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

リケラボは理系の知識や技術をもって働くみなさんのキャリアを応援するWEBメディアです。
研究職をはじめとする理系人の生き方・働き方のヒントとなる情報を発信しています。
理想的な働き方を考えるためのエッセンスがいっぱいつまったリケラボで、人・仕事・生き方を一緒に考え、自分の理想の働き方を実現しませんか?
https://www.rikelab.jp/