大会イメージキャラクター「アッピン」(右下に写り込んでいます)のポーズをとる宇都宮女子高等学校のメンバー。前列右から時計回りに櫻井遥香さん、キャプテンの渡邊優理恵さん、長澤茅子さん、小島優里さん、阿久津浩先生、杉山奈央さん、井田菜々香さん、永田歌寧さん、岡田莉佳さん、大塚圭子先生

年に一度、理科好きな高校生たちが知力をつくす『科学の甲子園』。その第8回全国大会が2019年3月15~18日に埼玉県さいたま市で開催されました。

今年は過去最多となる709校から9075人がエントリー。県予選を勝ち抜いた全国代表校の47校・361人のうち女生徒の占める割合が19.7%と、過去最高になったことも話題となりました。

出場校のなかで私たち「Rikejo」編集部が注目したのは、唯一の女子高チームである栃木県立宇都宮女子高等学校です。創立144年の歴史を持つ同校は現存する最古の公立女子校でもあります。2008年に文部科学省から理数教科を重点的に学ぶ「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定されたこともあり、科学技術を牽引する女性人材の育成に力を入れています。

8人全員が2年生の宇都宮女子チームは、物理が得意というキャプテンの渡邊優理恵さんと、中学時代に「科学の甲子園 ジュニア」に参加した経験がある長澤茅子さんを中心に結成されました。「Rikejo」は大会中、同校の校章にもあしらわれている白百合のように可憐な宇都宮女子の活躍を追いました!

“体験”することで地学の面白さを改めて実感

科学の甲子園では、1日目の筆記競技、2日目の3つの実技競技の計4種目の総合得点で順位が決まります。各出場選手はそのうち2つの競技に参加します。

初日の筆記試験は理科、数学、情報分野からの出題。まだ授業では習っていない内容も含まれるため、宇都宮女子チームはメンバー内で範囲を分担して放課後や休日に予習し、本番に臨みました。

2日目におこなわれた実技競技の最初の科目は地学です。出題されたのは、「3種類の岩石の密度を測定して地球の重さを求めよ」「会場内に設置された模擬天体を望遠鏡で観測し、架空の恒星Aと地球の距離を求めよ」など、一筋縄ではいかない問題ばかり。


実技1に参加した永田さん(左)と小島さん(出典:科学技術振興機構)

でも難しいからこそ、地学の楽しさを実感できたと、競技に参加した長澤さんはいいます。

「地学は天文とか気象とか、扱うものが壮大すぎて、本当の意味で理解するのが難しいと思ってました。でも実技1を通して地学を“体験”することができて、改めてその面白さに気づかされました」


3日目のシンポジウムで質問する長澤さん。昆虫愛を熱く語り、会場を沸かせていました

チーム唯一の文系である小島優里さんは、文系教科にはない学びが新鮮だったと話します。

「実験をして、その結果をもとに計算・考察するという、文系教科にはない一連の作業がとても楽しかったです」

実技競技2では、3種類の実験の結果から5つの糖類溶液を同定するという化学の問題に挑みました。

初出場ということもあり、実技2のチームはとても緊張していたそうですが、メンバーである井田菜々香さん、岡田莉佳さんと範囲を分担して勉強していたことが功を奏したとキャプテンの渡邊さんはいいます。

「残り時間が少ないときに井田さんに1問追加でお願いしたら、完璧に解いてくれたんです。岡田さんもあきらめそうになったときに機転をきかせてくれて、2人にとても助けられました」


実技2の実験をする井田さん(出典:科学技術振興機構)

一方の井田さんも「私もすごく緊張してたので、渡邊キャプテンに精神的にとても助けられました。このチームで出場できて本当によかったです」と話します。

ジャイロ2輪車が見事に完走!

随所でチームワークのよさが光る宇都宮女子。8人の団結力が実技競技3「ツールドさいたま」でもいかんなく発揮されました。この競技は、用意された材料と工具だけでジャイロ2輪車を製作し、レースでその速さを競うというもの。

レースが始まっても他の代表校の2輪車がなかなか走り出せないなか、宇都宮女子は早めにスタートを切り、予選を2回とも見事に完走! 実技3は大会前に問題が発表されていたことから、放課後や休日に8人全員で集まり2輪車の試作を繰り返したそうです。

他チームがスタートに苦戦するなか、すばやく走り出した宇都宮女子のジャイロ2輪車。左からメンバーの櫻井さん、岡田さん、杉山さん、小島さん(出典:科学技術振興機構)

2輪車の製作時間の短縮と車体の重心を低くして安定した走行を目標に製作に取り組んだ宇都宮女子。「車輪にCD-Rを使わずにCD-Rよりも直径の小さい滑車(プーリー)を使いました」と小島さんは成功の秘訣を教えてくれました。

こうした工夫もメンバー全員で知恵を出し合ったから生まれたと岡田さんはいいます。

「8人で一緒に作ったからこそ、すばらしい2輪車を完成させることができました。私ひとりだったら絶対にできなかったと思います」

かけがえのない仲間ができた

全国大会に出場するにあたり、宇都宮女子の8人は具体的な目標を決めていました。それは、女子生徒3人以上を含むチームのうち最優秀チームに贈られる企業特別賞「帝人賞」入賞。

「それが今回叶わなかったことが、すごく心残りです」と永田歌寧さん。

キャプテンの渡邊さんも「出場校のなかで唯一の女子高だからではなく、結果を残して注目してもらいたかったです」と悔しさをにじませます。


表彰式で涙ぐむキャプテンの渡邊さん。引率の大塚先生が励ましていました

残念ながら目標は達成できませんでしたが、メンバーそれぞれが今回の大会でたくさんの学びを得たといいます。

櫻井遥香さんは、他校の生徒のハイレベルな知識や技術におおいに刺激を受けたそう。彼女が驚いたのは、実技3のツールドさいたまで1位をとった岐阜県立岐阜高等学校の発想力でした。

「ジャイロは一度回りはじめるとなかなか止まらないことに気づき、電池を車体には載せずに、ジャイロを回すときだけ使うことで、車体の軽量化を図りタイムを短縮させたんです。すごいアイデアだと思いました」

かけがえのない仲間ができたというのは、杉山奈央さん。

「私たち8人は性格も得意分野もぜんぜん違うけど、科学の甲子園に出場したおかげでとても仲良くなることができました。普通に学校に行ってるだけじゃ、こんな経験はできなかったと思います」

惜しくも入賞は逃しましたが、初出場ながら19位という好成績を残した宇都宮女子。「女子だから」という気負いもなく、和気あいあいと理系の難問に挑んだ姿に、背中を押された同年代のリケジョも多かったはずです。

「科学の甲子園」から誕生した8人のすばらしい高校生リケジョグループの、今後の活躍が楽しみです。

文・特記外の写真=増保千尋
提供/国立研究開発法人 科学技術振興機構 科学の甲子園
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