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「声が小さいと人に言われる」「滑舌が悪い」「鼻にこもる」など、声にコンプレックスをもっている人は多いのではないだろうか。そうした声の悩みの根本原因は「舌の筋力=舌力の不足」だと見抜いたのが、ナレーターとして活動するかたわら、アナウンサーや声優など、声を仕事とするプロたちのトレーナーとしても活躍する篠原さなえさんだ。このたび『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方』を著した篠原さんに、「舌力」について解説してもらった。

舌は7つの筋肉でできている

先日、「東京ディズニーランド開園から35周年」というニュースをやっていました。そのオープン当日の1983年4月15日、私が何をしていたか……。

実はディズニーランドの正面入り口に立っていました。テレビレポーターとしての初仕事が、ワイドショーでのディズニーランド開園の取材という大役だったのです。

ところが番組冒頭で「開園後、中の様子をたっぷりお伝えしますね」と言った私は、それっきり、画面には一切映りませんでした。いったい何があったのかというと……。

 

オープン直後とあって、バックヤードには資材などが散らかっていました。そのため足元が見えにくくなっていて、蓋の外れていた溝に気が付かず、中継車がすっぽりとはまってしまったのです。大きく傾いた中継車は、電波を飛ばすことができなくなっていました。今ならスマホで緊急事態は回避できるかもしれませんが、当時はなすすべもありません。

というわけで、私の出演していた朝のワイドショーは、東京ディズニーランド開園という大イベント中の園内を生放送で伝えられず、ヘリによる空撮だけが空しく流れるという大惨事となったのです。私のクビこそ飛びませんでしたが、だれかが詰め腹を切らされた可能性は……。お気の毒としか言いようがありません。

とまあ、あれから35年。気がつけば、ずいぶん長いこと声にまつわる仕事をしてきました。駆け出しのころは、このようなレポーターや、ラジオのアシスタント、声優などをやっていました。その後は、高校野球や駅伝などの女性初の実況アナウンサーとして活動していました。また、バラエティ番組から、お堅い企業VPまで、いろいろな種類のナレーションもしてきました。

そんな経験を生かして、ここ10年ほどは後進の指導もすることになり、たくさんの人に読みのノウハウを教えてきたのです。

ものを読むという仕事は、相手にちゃんと聞こえてはじめて成立するものです。ところが、「声の仕事をしたい」と希望しているのに、発声にも滑舌にも問題があるという人がたくさんいます。もちろん私自身も、若いころは「プロの声」にはほど遠く、訓練の中で声をつくりあげてきたわけです。しかし、生徒たちの中には、訓練で声をつくる以前に、何か大きな問題があると感じられる人たちが大勢いました。

それが何かを徹底的に探ってきて、ついに見つけ出したのが、「舌力」という考え方です。舌力とは私の造語で、「舌を後方まで持ち上げる力」と、「舌幅を縮める力」を総合した舌の筋力を指します。

なぜ、あえてこんな命名をしたかというと、舌は7つの筋肉でできていて、ひとくちに舌の筋力といっても、鍛える場所を間違えるとどうしても効果が薄くなるからです。しかし、舌力をつける正しい方法さえ実践してもらえれば、それまでどうにも改善できなかった発声や滑舌が、確実によくなっていきます。

あなたの「舌力」は?

ではここで、あなたの「舌力テスト」をしてみましょう。

軽く姿勢を正して口を閉じてみてください。そのとき、あなたの舌はどこにありますか?

A 舌の後ろまで、上顎にべったりついている
B 舌の前方は上顎についているが、後ろはよくわからない
C 舌は上顎にまったく触っていない

Cだった方、残念。あなたは、「低位舌」です。

舌が上顎にまったくついていないという人は、圧倒的な舌の筋力不足で、この状態を低位舌といいます。低位舌のままでは、滑舌はよくなりません。また、ポカン口にもなりやすく、口を開けたままで呼吸をしていると風邪をひきやすくなります。姿勢も悪くなって肩こりや頭痛を引き起こします。顔の筋肉も垂れやすく、早めに老け顔になります(笑)。果ては、無呼吸症候群や、誤飲性肺炎まで引き起こす可能性もあります。

なお、「ポカン口」とは低位舌のさらに悪化した状態ともいえ、出っ歯や受け口など、顔の形まで変わってしまう危険を秘めている、恐ろしい悪習慣です。

Bだった方、よかったですね。あなたは低位舌ではありません。舌の前方が上顎についていれば、低位舌とはカウントされません。ですから、現在の医学では、低位舌さえ治れば、もうそれで問題なしとされています。

しかし! 問題はあるのです。舌の後方が上顎につかないと、舌っ足らず、鼻声・喉声など、声に問題が起こりやすくなります。しかも、年を取ってから、低位舌と同じような症状を引き起こす可能性が十二分にあるのです。ですから私は、舌の前方はついているけれど、後方はついていない状態のことを「前位舌」と命名し、生徒さんたちの前位舌は、徹底的に直しています。

なお、舌の前方はついているけれど、後ろのほうが「どうなっているかわからない」という人は、十中八九、舌の後ろのほうは上顎についていません。ついている人は、はっきり「ついている」と感じられるものなのです。つまり、Bを選んだ方は、前位舌なのです。

Aだった方、おめでとうございます。親知らず近くまで、しっかり舌がついているのを感じられる方は、「舌を後方まで持ち上げる力」がある人です。あなたはきっと、よく通る聞きやすい声をお持ちのことでしょう。

でも、もしも舌が後ろまでついているのに、小さい声、こもった声、喉声・鼻声、声が嗄れやすいなどの状態だったら、それは「舌力」のもう一つの力、「舌幅を縮める力」が、足りないのだと思われます。

 

舌幅をうまく縮められない人は、唇の幅を縮めることも苦手なはずです。舌幅を縮める力と唇を縮める力は、実は、直結しているからです。そこで私のレッスンでは、舌幅を縮めるという感覚がどうしてもわからない人には、唇の幅を縮める訓練から始めてもらっています。舌は見えませんが、口は鏡で見ることができるので、訓練しやすいという利点があるからです。

なお、この唇を縮める力のことを、私は、「下唇のしわしわ力」と命名しています。この「下唇のしわしわ力」を入れることができるようになれば、「舌幅を縮める力」も改善されてきます。

「滑舌が悪い」「声が小さい」本当の理由は「舌力」にあった!

舌力は声だけでなく体のバランスにも影響

さあ、テストの結果はいかがでしたか?

「舌力」が身につけば、滑舌がよくなるだけでなく、鼻声・喉声などの発声問題も解消し、また驚くほど姿勢がよくなります。姿勢がよくなれば、ストレートネック・スマホ首などが改善され、肩こりなども緩和されます。体のバランス感覚もよくなりますので、スポーツ全般によい効果が生まれます。

呼吸もよくなりますから、酸素が脳にいきわたって、知的活動の向上も期待できます。

そして、うれしいことに、見た目が変わります。二重顎、たらこ唇、ほうれい線や首の横じわなどが改善され、いつまでも若々しい張りのある顔回りを維持できます。

本当に、舌ひとつで、こうも変わるかというぐらい、体中に影響がおよびます。体を家にたとえれば、舌は「屋根」のようなものです。もし、屋根が雨漏りだらけだったら、家はあっという間に腐ってしまいますよね。同様に、舌力が不足すると、体のいたるところにガタがきてしまいます。

舌は、みなさんが思っている以上に大きなパワーを秘めているのです。

日本人のための 声がよくなる「舌力」のつくり方 

声のプロが教える正しい「舌の強化法」

  著 : 篠原 さなえ

  定価: 920円(税別)

声のコンプレックスの元凶は「舌力」不足だった! 舌の筋力が足りない「低位舌」「前位舌」は、発声・滑舌を阻害するだけでなく、顎の変形を引き起こし、姿勢、呼吸、運動能力、知的活動にまで悪影響をおよぼす。美しく印象のよい日本語を話すためにも必須の「舌力」が身につけば、見た目も若返り、職場や学校での人間関係もよくなる! 簡単にできて効果絶大の「舌力」トレーニングを実践して、明日からの人生を変えてみよう!