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二十四節気とは?

もうすぐゴールデンウィークのこの時期は、春と呼ぶにはあまりに日差しは強く、夏というにはまだ早い、特有の輝かしさを放っています。春夏秋冬だけでは言い足りない、細やかに移りゆく日本の季節を示すものに「二十四節気」があります。

二十四節気は、1年をきっちり24等分し、それぞれの区切りとなる瞬間の点に名前(立春など)をつけて、その時を含む日をその日と決めたものです(同時に、次の区切りがくる前日までの期間も同じ名前で呼びます)。

 

ここで言う「1年」とは365日のことではなく、厳密な「太陽年」の1年。つまり、地球が太陽の周りをぐるりと1周する時間をもとにしています。そのため、二十四節気は年によって若干日にちがずれることがありますが、必ず太陽と地球の位置関係は同じになるため、季節の指標になるのです。

二十四節気

2018年4月20日は、「穀雨」の日。穀雨とは、穀物を育てる春雨が降りそそぐころを示しています。

私が育った千葉県では、そろそろ田植えのメインシーズン。田植え直後の稲は、新しい教室に馴染めない新入生のように、頼りなく弱々しい姿をしていますが、日が経つにつれ、地面に根を張り、株を増やして、太くがっしりとした姿に変わっていきます。これから一雨ごとに一層強く育っていくことでしょう。

私はいつも田んぼのある風景を見ると、言いようのない嬉しさを感じます。「これが育てば今年も米が食えるぞ!」という安心感もあるのでしょう。田んぼに適した平地だけでなく、急な斜面も工夫を凝らして棚田に変え、そこかしこで稲を育ててきた日本人。炊いた米と、毎食の食事のことをどちらも「ごはん」と呼ぶことからも、日本の食との密接な関係を感じます。

穀雨の今日は、日本を代表する穀物である米に思いを馳せてみましょう。

写真 大山千枚田

私たちが1年間に食べる米の量は?

日本人は1年にどれくらいの米を食べているのでしょうか。省庁が出している統計結果をもとに考えてみます。

まず、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」にある「栄養素等摂取状況調査の結果」には、食品群ごとに1人が1日あたりその食材を何グラム食べているかが出ています。

平成28年度のデータで米・米加工品のカテゴリーを見ると、20歳以上の男女平均で308.7グラムです。お茶碗1杯がおよそ150グラムなので、毎日お茶碗2杯分のごはんを食べていることになります。朝はパンでも昼と夜はごはんだとか、昼か夜には麺類を食べるなどが、今の日本人の平均的な食べ方と言えるかもしれません。

もうひとつ、別の視点からの結果も見てみましょう。農林水産省による「食料需給表」です。こちらは、消費者にどれくらいの食料が供給されているかを知ることができます。

同様に1人1日あたりに換算してみると、その量は149グラム。先ほどの数字と大きく異なりますが、それはこの値が炊飯前の米の重さだからです。米は炊飯すると、2.1〜2.3倍の重さになるので、149グラム×2.2で計算すると、327グラムになります。おや、それでも少し数字が違うようです。

それぞれのデータの説明を読むと、国民健康・栄養調査は“日曜,祝祭日以外で,冠婚葬祭その他特別に食物摂取に変化のある日を避け,被調査世帯においてなるべく普通の摂取状態にある日”の“1日分の食事内容”を表すとのこと。つまり、1年間の平均を取ったものではなく、この値にはパーティーや親戚が集まった日などの特別な食事は含まれていません。

一方、食料需給表には“本表により算出された食料の供給数量及び栄養量は、消費者等に到達した食料のそれであって、国民によって実際に摂取された食料の数量及び栄養量ではないことに留意されたい”とあります。この書きぶりから、消費者等に到達していても実際には口に入っていない分もありますよ、と読み取れます。

そこで思い出したのが「食品ロス」という言葉。食品ロスとは、まだ食べられるのに廃棄される食品のことです。業者や小売店から出るいわゆる廃棄食品だけでなく、飲食店や家庭での食べ残し、すっかり忘れて冷蔵庫で賞味期限が切れてそのまま捨てられていく物や、料理時に皮を剥き過ぎるなどして過剰に取り除かれたぶんも含まれます。

農林水産省が出した平成26年度推計では、日本全体で621万トンの食品ロスがあるとしています。そのうち、家庭と外食時の排出分について、同じく農林水産省が統計調査結果を公表しています。家庭での食べ残しまたは食べられなくなって捨てられている量は、米を含む穀物類で、1人1日あたり1.7グラム。

この数字はそれほどの量に感じませんが、外食時では桁違いに増加します。廃棄や調理時の過剰除去は含まない客の食べ残しのみの量で、1食あたりの穀物類は食堂・レストランで6.7グラム、結婚披露宴では13.7グラム、宴会になると20.9グラムです。

 

宴の席でラストオーダー間際に駆け込んで頼んだご飯物を、結局食べ切ることなくお開きになったという経験は、誰しも一度や二度ではないはずです。毎晩、各地の会場で同じ状況が繰り返されているのでしょう。

ともかく、ここでは消費と供給のふたつの統計値の間を取って1日に318グラム、およそお茶碗2杯分のごはんを食べているということにしましょう。これは炊飯前の米に換算すると144.5グラム、1年間に直すと52.7キログラムになります。スーパーにある大きな10キログラムの米袋を5つと小さな3キログラム袋を1つ買うと、ちょうど1年分です。

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日本人1人を食べさせるのに必要な田んぼの面積

では、その1年分の米を作るには、どれくらいの面積の田んぼが必要なのでしょうか。こちらも農林水産省の統計が活用できます。「平成29年度産 水陸稲の収穫量」をひもとくと、全国平均で1000平方メートルあたり534キログラムの米が収穫できたことがわかります。これは精米前の玄米の重量です。精米するとおよそ10%減るので、精米後には1000平方メートルあたり480キログラム程度の米になります。

米の収量は、育て方やその年の気候によって左右されるため毎年変化しますが、これを基準に考えると、1人が1年間で食べる52.7キログラムの米は、およそ110平方メートルで収穫できることになります。110平方メートルというと、首都圏のJRを走る電車の1車両が長さ20メートル、幅2.9メートル程度なので、1両でだいたい半年分です。1年分なら電車2両の広さで作れます。

昔と比較してみましょう。江戸時代には、田んぼ1反(およそ1000平方メートル)で穫れる米の量を「1石」としていました。1石は当時の大人が1年間で食べる米の量です。それが今は約1/10の面積でまかなえるようになったということです。その理由には、農業技術の向上や品種改良によって狭い面積でたくさんの米が収穫できるようになったこと、そして、1人が食べる米の量が減ったことが挙げられます。

1石は2.5俵、1俵は約60キログラムなので、江戸時代の大人は1年で約150キログラムを食べる計算です。1931年に執筆したとされる、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」には、“一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ”と出てきます。1合は約150グラムなので1日に600グラム、1年では219キログラムの玄米を食べる計算になります。おかずが味噌と少しの野菜だけであることからも、食生活が今とはかなり異なることがわかります。

前出の食料需給表を遡ると、最も古いデータの昭和35年(1960年)の米の供給量は114.9キログラム。60年前でも今の倍以上食べています。その後、昭和37年の118.3キログラムをピークに、平成元年には70.4キログラム、平成27年からは55キログラムを下回るようになるなど、長年にわたり減少傾向が続いています。

図 米の供給量累年表

国土の4%が支える日本の主食

では、日本国民全員分を収穫するにはどれぐらいの面積が必要になるのでしょうか。日本の人口は平成29年10月1日現在で1億2670万6千人(総務省統計局)。1人が1日に食べる米の量については、20歳以上が308.7グラム、1歳以上でも307.3グラム(いずれも国民栄養・健康調査より)と、ほとんど差がありません。

そこで、先ほどの1人あたりの面積、110平方メートルをそのまま人口に掛けて計算すると、必要な田んぼの面積は約14,000平方キロメートルと出ます。実際の田んぼの面積はというと14,660平方キロメートル(平成29年度産水陸稲の収穫量より。田んぼではない陸稲もほんのわずかに含まれた値)。こちらも、食べる量と同様に年々減少を続けています。

日本の国土はおよそ37万8000平方キロメートルですので、現在の田んぼの面積は、国土の4%弱に相当します。たった4%ですが、ここが私たちの毎日食べている米を作るための大切な場所です。

これからの季節に降る雨は、米を育てる春の雨です。雨で気分が沈んでしまいそうなときも、田んぼで育つ稲の姿を想像すれば、少しは気が晴れるのではないでしょうか。

植えたての稲