ではわかっている
だけど、は・・・
でも、カラダはそっと変わっていく

 

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体外受精により得られたヒトの受精卵(提供:ミオ・ファティリティ・クリニック)

「卵活って、なんかイヤな言葉ですね・・・」
ある日のワイドショー、女子アナウンサーのつぶやき。
最近は、婚活に加え、妊活、卵活という言葉まで登場しています。ちょ・・・ちょっと、まって。
その前に、就活なんですけど!と叫びたくもなりますが、特にリケジョの場合、修士、博士・・・と進路の選択肢があるからこそ、就職・結婚・出産の適齢期が重なる可能性大
そう、これらの活動「○活」に共通するのは、適齢期があること。必ずしも、適齢期=正解 ではありませんが、適齢期を知ってこそ、自分なりの後悔しない選択ができるのかもしれません。
そして、その適齢期が、最新の科学によって、徐々に明らかになってきているのです。

 
 

毎月くる生理は何のため?何が起こっているの?

 

「最悪だ…試験とカブる」
私が学生の頃、一番恐れていたのは、大事な試験や大会と生理が重なること。20代前半まで、生理痛が重く、気を失うほどの痛みで病院に担ぎ込まれることもありました。赤ちゃんができるように準備していると分かってはいても、生理を煩わしく思う人も多いのでは・・・
毎月、毎月、私たちの体の中では、いったい何が起こっているのでしょう?
毎月、左右どちらかの卵巣では、卵子が卵胞の中で育ちます。成熟した卵子は、やがて卵巣を飛び出し、排卵されるのですが、毎月、何個の卵子が排卵されていると思いますか?
卵巣では、毎月たくさんの卵胞を育て始めますが、成熟過程で次々と脱落していきます。最終的に1個の卵子だけが、卵巣の外へと排卵されるのです。
一方、卵胞が育ち始めたことを合図に、子宮では子宮内膜を膨らませていきます。子宮内膜は、受精卵を迎えるための、ふかふかのお布団。生理直前には約1cmもの厚みになります。排卵された卵子が、いくつもの難関*を突破し、精子と出会い、受精卵となれば、子宮内膜に着床します。受精が成立しなければ、子宮内膜は不要となり、子宮の壁からはがれ落ちて、経血として体の外へ・・・これが生理です。

 
 

卵子の “量と質”

 
生理は、10~15歳くらいから始まり、閉経する50歳くらいまで続きます。ということは、閉経するまでは、いつでも妊娠できるのでしょうか?
1回の生理周期で、最終的に成熟するのは主席卵胞1つだけですが、そのために毎月たくさんの候補となる卵胞が育てられます。ならば、卵胞も毎月、新生されているかと思いきや・・・
卵胞の数は赤ちゃんの時がピークで、あとは減る一方!母胎にいる胎児の時点で、すでに約600万個の卵胞が作られています。しかし、それ以降は作られず、思春期の頃(第二次性徴)で20~50万個、37歳には2万5000個に減少(個人差はあります)。2万5000という数字は多いようにも感じられますが、最高値の1/200以下にまで減っています。「妊娠・出産の適齢期は35歳~37歳まで」と言われるのは、そのためだったのです。
一方で、 卵子の質は、受精卵の発育にも影響を及ぼします。一概に、年齢だけで決まるわけではありませんが、年齢は卵子の質に最も影響する要因です。下の写真、順調な受精卵では均等に細胞分裂が起こっていますが、順調でない場合は不均等な様子が見られます。

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体外受精後の受精卵 (提供:ミオ・ファティリティ・クリニック)

 
 

卵子凍結すれば問題なし?

 
「だんだん妊娠・出産のハードルが高くなることはわかった。でも、最近は卵子凍結もできるみたいだし、早めに卵子を採卵して、凍結保存しておいて、妊娠したくなったら体外受精すればいんじゃない?」
…ずいぶん、サラっと言いますね。
確かに、不妊治療や、がんの放射線治療を前に妊娠の可能性を残すことを目的に行われてきた卵子凍結の需要が、晩婚化・晩産化により広がっています。日本生殖医療学会は8月23日、健康な未婚女性が卵子凍結を行うことを認めた上で、ガイドラインを発表しました。

① 卵子凍結: 40歳以上は推奨できない
② 凍結した卵子での妊娠試み: 45歳以上は推奨できない

 
技術的にも、卵子を急速に凍結する技術や、保存液の改良により、精子や受精卵よりも壊れやすい卵子でも保存が可能になってきました。日本人女性の選択肢がこれで1つ増えたのも事実。しかし、生殖医療がどれほど進んでも変えられない現実も。25歳で自然妊娠する場合と、25歳で凍結保存した卵子で、15年後の40歳に妊娠を試みるとでは、当然、条件が異なります。高齢になると、体外受精によって妊娠できる確率は下がり、 妊娠しても合併症などのリスクが高まることも忘れてはいけません。
 
 

妊娠の科学を通じて、考える将来設計

 
科学技術によって、徐々に解き明かされていく私たちの身体のこと。そして医療技術の選択肢。
こうした情報が身近になりつつある一方で、妊娠・出産に関わる悩みや漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
9月22日(日)、日本科学未来館では、不妊治療から妊娠、出産までを扱う生殖医療のクリニックで院長をされている見尾保幸先生を講師にお迎し、トークイベントを開催します。まずは、生命の神秘に触れてみませんか。そして、私たちの身体のしくみと私たちが生きる社会とのギャップを知って、自分の人生を見つめてみませんか。(日本科学未来館・科学コミュニケーター 堀川 晃菜)
 
 

イベント情報

 

サイエンティスト・トーク「妊娠を科学する!―生命を生み出すしくみとその限界―」

開催日時 2013年9月22日(日) 14:45~15:45 (受付 14:25~)
開催場所 日本科学未来館 3階実験工房
参加費 入館料のみ
参加方法 事前申し込み不要。 直接会場受付にお越し下さい。
主催・問い合わせ先 日本科学未来館 Tel:03-3570-9151(代表)

 
※ 本イベントは14:45 - 15:45の講演部分のみ、Ustreamでライブ中継を行います。
講演後、15:45~16:15にかけて講師との質疑応答の時間を設けますが、この間のライブ配信はございません。
▶詳細はこちらをご確認ください。
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1308191713910.html

 
 

補足・引用文献

*卵子が受精卵になり、さらに子宮に着床するまでには、いくつもの難関が。突破率をかけ合わせていくと、妊娠しようと思って妊娠できる確率は、10%ほど。生命の誕生は、まさに奇跡的な確率です。
▶さらに詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
http://news.mynavi.jp/column/miraikan_ninshin/001/index.html
 
 
ライター プロフィール

profile

堀川 晃菜(Horikawa Akina)
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
同じことでも伝える人や伝え方によって、生み出されるものが違うからこそ、
究極のコミュニケーションって何だろう、と思います。企画力、表現力を磨きたい。
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。