■男女で生まれつきの能力差があるのか?

 
日頃より大変お世話になっている東北大学大学院医学系研究科 大隅典子教授が翻訳に携わられた『なぜ理系に進む女性は少ないのか? トップ研究者による15の論争』(西村書店)が上梓されました。
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本の帯には、

男女で生まれつきの能力差があるのか?
米ハーバード大学長サマーズの発言をきっかけにした論争に対し、欧米のトップクラスの研究者が見解を展開!
「数学のノーベル賞“フィールズ賞”の受賞者に女性はまだいない」

とあり、認知科学、発達心理学、行動神経内分泌学などの専門家が、それぞれの立場で「なぜ科学の世界に女性がもっといないのか?」について論じています。

■エビデンスにもとづいた論旨を展開

大隅教授がご自身のウェブサイトで興味深いと感じたエピソードを以下のように語られています。

女子学生が数学の試験をする前に「有名な数学者には天賦の才能がある」と教わるか「天才数学者の非常に努力して成功した」というエピソードを聞くかによって、成績が異なり、前者よりも後者の方が高いスコアを取るという検証です。
あるいは、解答用紙に名前を書き込むか無記名がによっても、自分に対する「ジェンダー・ラベル」に意識が向くかどうかが変わり、それによって試験の結果が変わるという研究結果もあるとのこと。
(中略)
また、女性は職業選択の際に、男性より「社会の役に立つ」かどうかを重視する人が多いので、理系に進学し、職業に就く場合にも、多様な「社会へのたち方」があるということを、なるべく若いうちに伝えることも大事です。
その意味で、いろいろなキャリアのロールモデルが必要なのだと思います。

 
また本の中では、論文から引用されたグラフなど多数のデータとその出典が掲載されており、「無意識のバイアス」に気づくことが大事であり、日本でも同様の社会科学的な分析がなされ、無意識のバイアスについての検証が必要である、と大隅教授は語られています。

■目次

 

Ⅰ.背景設定 はじめに 理系分野の女性についての客観的な議論をめざして
Ⅱ.論説

第1章 理系分野のトップにいる女性たち
第2章 数の問題か? 質の問題か?
第3章 数学は天賦の才か? ー 女性を危険にさらす考え
第4章 性・数学・科学
第5章 科学を重要視する ー 空間認知能力の性差についての論理的な考察
第6章 科学の専門性を身につける個人的特性の性差
第7章 認知能力の性差によって科学分野の女性不足が起きているのか?
第8章 脳・バイアス・生物学 ー データを理解する
第9章 科学・性別・優れた能力 ー なぜ科学や数学分野に女性は少ないのか?
第10章 科学分野の女性 ー 能力と社会文化的影響力での男女の類似性
第11章 職業選択の根源 ー 心理的性差への胎児期の性ホルモンの影響
第12章 心の性差 ー 科学と社会政策を区別しよう
第13章 数学や科学分野での性差に関する進化論的見地
第14章 認知能力の性差における神経基盤
第15章 女性はいったいどこにいるのか? ー 物理科学や工学分野でのジェンダー差

Ⅲ.結論 近づこうとして離れてしまう? 共有するエビデンスが対立する見解を導く

■おわりに

大隅教授は、女性科学者育成のための活動に幅広く取り組まれています。所属されている東北大学は、ちょうど今年で日本初の女子学生(しかもリケジョ!)入学100周年を迎えます。
また、2011年3月に起きた東日本大震災の影響も受け、出版にあたっては大変な困難もあったそうです。
ぜひ、皆さんもこの機会に本書を手にとって読んでみてくださいね。
(砥上)