半導体の製造ラインで働くマイクロンの人々(写真提供:マイクロンメモリ ジャパン)

スマートフォンやパソコンなどの電子機器はもちろん、人工知能や5Gといった最先端分野に不可欠な半導体メモリを開発・製造しているMicron(マイクロン)。半導体のグローバル企業として世界17ヵ国に拠点を持ち、日本では広島県の東広島市に最先端の生産拠点を置いています。

広島県の中央部に位置する東広島市は豊かな自然に恵まれた地域ですが、同時に広島大学を始めとする複数の大学や企業の研究機関が所在する学術研究都市でもあります。今回はサイエンスエンタテイナーとしてさまざまなメディアで活動する五十嵐美樹さんがマイクロンの広島工場を訪問取材しました!

「見ていて飽きない」クリーンルーム

五十嵐さんが早速向かったのは、半導体メモリが製造されるクリーンルームです。半導体を製造する際には、ほんの少量の塵やほこりが大敵となります。クリーンルームは常に一定の温度と湿度に保たれ、空気中の塵やほこりの量は極限まで減らされています。

クリーンルーム内で作業をする人は、特別な作業着、マスク、キャップ、保護メガネで全身を覆い、衣類や人から発生する塵やほこりなどが生産装置に付着しないようにしています。さらにクリーンルームの入口に設けられるエアシャワーで塵やほこりを払い落とし、ようやく中に入ることができるのです。

クリーンルーム内の生産過程は完全に自動化が進んでおり、基本的には人間が作業していません。オフィスから遠隔操作されたロボットや自動搬送機がフル活用され、効率よく作業が進められています。しかし最終的には人間の能力が重要となります。効率よく作業を進めるための改善活動や、生産装置の点検や維持などは人の手で行っています。

五十嵐さんはクリーンルームで作業するふたりの若い女性エンジニアに話を聞くことができました。彼女たちの言葉からも、生産現場で自動化が進んでも人間の能力の重要性が伝わってきますし、大きなやりがいを持って仕事に取り組んでいることがわかります。

お話をうかがった浅井優希さん(写真右)と山本芽実さん(写真左。撮影:河西大地、(c)講談社)

「私の仕事はどうやったら生産装置が安定して稼働するかを考えることです。クリーンルーム内にある装置に異常があった時にはまずは現場に行って、どこが異常なのかを見に行きます。現場に行くことでより早く、深く理解することができるので、よくクリーンルームに行きます。

マイクロンでは毎月、社員が作業の改善活動を発表する機会があるのですが、そこで私も実際に発表させてもらいました。自分が関わった改善活動が評価された時は達成感があります」(装置エンジニアの浅井優希さん)

「生産現場の中で発生するさまざまな問題を解決するのが仕事です。実際に装置を見に行って、問題を確認するためにクリーンルームの中に行くことが多いです。半導体の生産では0.1マイクロメートル(マイクロメートルは1mmの1000分の1)の小さなゴミが問題になることが大きいので、装置のどのモジュールでゴミが発生しやすいかというのは実際に目で見に行く必要があります。クリーンルームは天井にウエハーの自動搬送機が走っています。見上げるとウエハーが運ばれている様子が見ることができますので、飽きないですよ(笑)。

生産の稼働率を上げるためにチームのメンバーと助け合いながら改善活動を行っています。私がメンバーの皆さんに感謝したり、メンバーからも感謝されることが多いです。自分のやった仕事がチームに役立っていると実感できますので、そこがやりがいですね」(装置エンジニアの山本芽実さん)

女性エンジニアと話した五十嵐さんは「ふたりとも若いですが、すごく生き生きとした表情で仕事をしているのが印象的でした」と語っていました。

塵やほこりを吹き飛ばすエアシャワーの強力な風を五十嵐さんも体験!(撮影:河西大地、(c)講談社)

五十嵐さんが次に向かったのは半導体メモリ製造の歩留まり向上のための解析のための集中施設です。歩留まりとは半導体を製造した際に、その中に含まれる良品の割合です。この歩留まりを改善させるために、施設内には数十台のモニターが並び、9名の技術者が12時間で交代しながら365日24時間体制で勤務し、クリーンルーム内の状況を監視しています。

この施設でプロセスインテグレーションマネージャをつとめる上利武さんにお話しを聞きました。

「ここでは製品が正しくできるのかを監視しています。大きく言って、監視ポイントは3つあります。最初のひとつは製造ラインの異物管理です。工場の中にある装置には、最善の注意を払っても、必ず異物(ゴミ、ほこり、堆積物)などの影響が残っています。一つの新しいウエハーが工場に入ってから全工程が終了するまでに数ヵ月かかります。その期間中にずっと異物の影響が存在していることがわからないままで生産を続けてしまうと、製造ラインにあるウエハーが全部不良品になってしまう可能性があります。できるだけ製造ラインの中で早めに除去することが重要になりますので、異常を解析してリアルタイムでラインにフィードバックしています。

2つ目のポイントは、ウエハー上に作られる微細パターンの正確性(形状、寸法、膜の厚さ、重ねズレなど)です。微細パターンは歩留りと直結しており、さまざまな工程で目標値が設けられています。ただし製造ラインでは、どうしても装置間差やイベントによって製造ばらつきが出てしまうため、常に監視およびフィードバックをして、できるだけ早くばらつきを減らしていく活動が重要になります。

最後の3つ目は、微細パターン製造が完了したウエハーの電気的なテスト結果の監視です。実際にテストの結果やテストで取得したデータ解析などを通じて、製造ラインの監視ではとらえられなかった、歩留りに影響を及ぼす問題が、新たに判明することがあります。これを製造ラインにフィードバックし、製造ラインでの封じ込めや二度と同じことが起きないような活動を促進しています。これら3つの監視をして、早期に歩留りを高めることが私たちの重要な役目になります」

この歩留まりを改善させるための施設でも、やはり最後は人間の目が重要となると上利さんは語っています。

「何か問題が発生すれば検査装置から自動でアラートがあがってくるところもあります。でも特に最先端のところは判断が微妙なところがあり、必ずしもアラートがあがってくるわけではありません。それに自動で監視できるから大丈夫と思ってしまうとそこに落とし穴がありますので、人の目と機械の両方で監視するのが大事になってきます」

環境への負荷軽減を優先しながら

近年、サスビナリティ(持続可能性)という言葉をいろいろな場所で聞きますが、マイクロンは半導体のグローバル企業として、世界各国の生産および技術開発拠点でサスビナリティに対して積極的なアプローチをとっています。

マイクロンのサステナビリティに対する取り組みには4つの柱があり、広島工場でも「エミッション=温室効果ガス排出量削減」、「電力」、「水」、「廃棄物」のそれぞれについてさまざまな取り組みを行っています。五十嵐さんがまず訪れたのは工場からの廃棄物を削減するための施設、蒸留塔です。

工場から排出される化学物質を再利用可能にするための施設を見学する五十嵐さん(撮影:河西大地、(c)講談社)

「クリーンルーム内で使用された薬品はそれぞれの種類に応じた貯蔵タンクに集められ、中和処理などを行って法的基準を満たす形で下水へと放出していましたが、環境保護への対策のために蒸留塔を2年前に設置しました」と語るのは給水・排水処理システム技術者の三家本裕史さんです。

「広島工場に2基ある蒸留塔では、工場から排出される薄いアンモニア排水は蒸気により蒸発した後に冷却器を通して凝縮し、濃度の高いアンモニア水になります。濃くなったアンモニア水は他社(別工場)に運搬され、別の用途に使用されます」

さらに排水処理設備で発生する無機汚泥の廃棄物を有効利用するためにコンクリート材などへの転用を進めて、再資源化率を高めるという取り組みもしているといいます。

半導体の製造工場で大量に使われるのが水と電気です。クリーンルーム内では、多くの工程で洗浄を行うことが多いため、水が大量に消費されます。マイクロンでは水の再利用率を高めるためのシステムを導入するなど、継続した設備投資を実施しています。

マイクロンは電気についても電力量そのものを削減する取り組みを行っています。さらに近年は再生可能エネルギーの導入も積極的に行っています。カフェテリア近くのバルコニーにソーラーパネルを設置し、広島工場内のオフィス棟の電力の一部をまかなっています。

「工場全体では大量の電気を消費していますので、西日本でも最大級の発電設備を持っており、必要な電力の一部を自家発電でまかなっています。それでも電力会社さんから受けている電力量は50万人都市ぐらいの一般家庭の使用量を大きく超える量になります」と語るのはファシリティ・ディレクタの大津雅人さんです。

「少しでも地球環境の助けになればと思い、昨年の夏からソーラーパネルで発電を開始しています。現在の発電量はオフィスで使用する電気の7%ぐらいになります。工場内のソーラーパネルは現在、一か所だけですが、将来的には追加することも検討しています」

サステナビリティに対する取り組みの4つの柱のうち「エミッション=温室効果ガス排出量削減」は現在、マイクロンが優先して取り組んでいる項目です。半導体の製造工程で発生する温室効果ガスを含む排気を処理する設備の強化をクリーンルーム内で進めています。さらに環境への負荷が少ない材料の採用も推進し、地球環境に影響を与える温室効果ガスの総排出量削減に取り組んでいます。

設備だけでなく「考え方」も最先端

五十嵐さんが最後に訪れたのは、マイクロンの広島工場の中心的な建物であるG棟の4階にあるオープンスペースのアトリウムです。開放的な空間には椅子やデスクが置かれ、広々としたミーティングスペースやワークスペースに加え、コンビニエンスストアやカフェテリアなどがあります。

明るく開放的な雰囲気のアトリウム(撮影:河西大地、(c)講談社)

「アトリウムエリアやカフェテリアはすごくきれいで、『本当にここが工場なの!?』というぐらいにおしゃれです。こんな工場は日本にはまずないと思います。どちらかといえば、最先端のIT企業という雰囲気です」と五十嵐さん。

マイクロンはダイバーシティ(多様性)、イコーリティ(公平性)&インクルージョン(包摂性)(以下DEI)を尊重する企業文化の醸成に力を入れていますが、アトリウムエリアにはDEIを推進するためのさまざまな施設が集結しています。

英語を母国語としない社員をサポートするイングリッシュ・ヘルプデスク、社員の心身の健康に関する相談窓口であるウェルビーイングブース、さまざまなITサービスを提供するIT2GOなどの施設があります。

さらにG棟の3階には子育て中のワーキングマザーが使用できるマザーズルーム、宗教にかかわらず利用できる礼拝室も設けられており、さまざまなバックグラウンドを持つ社員の方が能力を発揮できるような環境が整っています。そのひとつひとつを見て、五十嵐さんは「DEIが言葉だけでなく、広島工場の中でしっかりと体現されていることに感激しました」と話しています。

「カフェテリアでの食事もそうです。多様なバックグラウンドを持つ社員のために、イスラムの教えに則ったハラル食やベジタリアン向けのメニューを提供しています。さらにカフェテリアには海外のスナックが販売されているインターナショナルキオスクもありますし、車いすの方にも使いやすい自動販売機やバリアフリーのスロープなどもあります。そういう細かいところまでDEIが徹底されているのはすごいです」

広島工場の取材を終えた五十嵐さんは、マイクロンの職場環境にすっかり感心した様子でした。

「広島工場は設備だけでなく、考え方も最先端です。性別や国籍、バックグラウンドなどに関係なく、社員の方が自分の能力を発揮できる環境が整っています。あと私は半導体の分野は大学で専門的に勉強している方が働いているというイメージが強かったのですが、そうじゃなくてもモチベーションがあれば一から学べる環境がマイクロンにはあることが印象的でした。実際、工場の中には発電、変電、純水製造、排水処理、化学など、理系の幅広いバックグランドを持った人々が活躍できるフィールドがあります。理系を学んでいる学生の中には将来、どんな分野に進もうかと迷っている人も多いと思いますが、エンジニアとして最先端の技術に関わり、グローバルな企業文化に触れながら自分を成長させたいと考えている人にとって、マイクロンは働きやすいし、すごくチャンスの多い職場だと感じました」

五十嵐さんの工場訪問動画はこちら!

(撮影:河西大地、(c)講談社)

提供/マイクロンメモリ ジャパン株式会社
https://jp.micron.com/

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(構成・文/川原田剛)