わたしたちの生活を支える自動車やロボット、そして多種多様な部品たち。そんな社会で役立つ製品を生み出しているのが、ものづくりにたずさわる企業です。
「ものづくりの仕事に興味がある!」「でも、どうすればいいかわからない……」。そんな悩みを抱えている人も、多いのではないでしょうか。
そこで今回、Rikejoがインタビューしたのは、株式会社アイシン先進開発部技術開発室の藤川実香さん。自動車部品をはじめとして、さまざまな領域のものづくりに取り組んでいる同社で働くことを選んだきっかけ、そして背中を押してくれたノーベル賞受賞者・益川敏英さんとの思い出などを語ってもらいました!
インタビューに応じてくれた、株式会社アイシン先進開発部技術開発室の藤川実香さん(©株式会社アイシン)。

EV時代に活躍する画期的なギヤを開発!

Q. 今は、どんなお仕事に取り組んでいるのですか?

自動車にはたくさんの部品が使われていますが、株式会社アイシンは、そのほとんどの部分を製造・供給している会社です。みなさんがよく名前を聞くのは、完成車メーカーだと思いますが、わたしたち部品メーカーはそうした企業と協力して、新車両の開発に参加したりもしています。

わたし個人について言うと、その中でもとくに、未来のギヤの研究開発に取り組んできました。

Q. 「未来のギヤ」とは、どういうことでしょう?

時代の進化に合わせて、周辺技術も進化する中で、ギヤとしてどんな性能が必要となるかを考え、そこから課題を創造し、それを解決する技術開発を行っています。
たとえば、わたしが開発したのが高効率・高減速の遊星ギヤというものです。

ギヤというのは、そもそも「必要悪」と言われたりする存在なんです。本来なら、たとえばモーターのような駆動源が生み出す回転運動を、ギヤを介さず、車輪のような回転する力が利用される場所に直接、伝えることができれば効率がいいはずなんです。

けれども、それだけでは軸が回転する速度を変えたり、トルク(回転軸のまわりの力のモーメント)を大きくすることはできません。それでは困ってしまうことは、みなさんも想像がつくと思います。サンルーフやスライドドアなど、自動車のまわりで動くものすべてが、モーターの軸のようにビュンと高速で動くなんて、ちょっと考えられませんよね。

ギヤがになう大きな役割のひとつが減速です。減速する割合のことを減速比と呼びますが、わたしが開発したのは、その減速を効率よく行えるギヤということになります。
細かい話になりますが、減速比20を実現しようとする場合、通常では17歯以上のギヤが必要でした。これを、6歯でまかなえる小歯数ギヤを設計したのです。

このギヤがあれば、これまでギヤを2段構えで使わなければならなかったギヤセットを、1段に減らしてコンパクトにすることができます。ギヤセットは大きくて場所を取るだけでなく、必要な部品数も多かった。それを71点から35点に削減できました。

現在の市場では、2段以上のギヤが、ロボットの関節だとか自動車のパワースライドドア、トランスミッションなど多くの製品に利用されています。小さくて、部品点数も少ない、この新しいギヤは今後、そうした場所で使ってもらえるようになるだろうと期待しています。

また、自動車には、電気を回転力に変えるアクチュエータが多く搭載されています。現在のガソリン車でも1台につき100個以上が搭載されているんですね。今後は自動車の電動化が進んでいきますが、EV(電気自動車)にはもっと搭載数が増えていくと見込まれています。そうなると、自動車全体をどうやって軽量化・省電力化していくかが課題になります。
自動車に多くのアクチュエータを供給しているアイシンとして、この小歯数ギヤのような技術開発を進めることが、こうした課題の解決に役立つのではないかと思っています。

藤川さんの開発したギヤを使うとギヤセットはこんなにコンパクトに(©株式会社アイシン)。

実は、出身は「農学部」!?

Q. お話をうかがっていると、藤川さんはバリバリの「機械女子」なのかなという印象を受けますが、実は大学は工学系の学科ではなかったとか?

はい、農学部の出身なんです。自然や生き物が好きだったことと、食べることが大好きだったので(笑)、今思えば短絡的だったんですが、とりあえず農学部かなと。

ただ、当時からものづくりに関わりたいという気持ちもあったので、入学して選んだコースは、農業機械のコースでした。自然環境にやさしいものづくりをテーマに、農作業を体験したり、環境学の講義を受けたりと、幅広い勉強ができました。

「農業機械」と聞くと、トラクターとかコンバインといったものが思い浮かぶかもしれませんが、実はかなり多様な技術を扱う分野になっています。たとえば、自動運転やドローン技術を用いたスマート農業だったり、光を使って作物の状態を監視するといった研究もあります。

わたしが取り組んでいたのは、農作物の生育診断の研究です。高齢化で農業の担い手が不足していく中、ノウハウがなくても農作物が元気に育っているかどうかを見極められるシステムを開発しようという試みです。

もう少し具体的に言うと、レーザーを利用して、農作物を非破壊計測するというもの。レーザースペックル模様と呼ぶんですが、植物の葉にレーザーを当てたときに撮影できる画像をもとに、植物が感じているストレスなどを数値化しようというものでした。

農作物の健康を確かめるのに、破壊的な方法では意味がない。レーザーで植物の感じているストレスを計測できれば、植物を傷つける必要がない(提供:藤川実香さん)。

Q. アイシンでのギヤの開発とは、ずいぶんちがう研究のようですが、なぜアイシンに?

ものづくりがしたいという気持ちが強くて、就職するならメーカーだなというイメージは、学生時代から持っていました。ただ、農業機械の分野に絞り込んでしまうと、候補になる企業が限られてしまって、なかなか難しそうだと思っていたんです。

そんなとき、アイシンのインターンシップのことを知ったんですね。アイシンのインターンシップでは、さまざまな部署が学生を受け入れていて、60〜70近いコースがあり、そこで実際の業務にも携わることができるということで、面白そうだなと。テーマを見てみると、自動車部品の話ばかりじゃなくて、AIであったり「3Dプリンターを利用して新しい製品が作れないか?」といった内容もあって、挑戦してみようと思えたんです。

工学部系の学科にいたわけではないわたしとしては、他の機械メーカーのインターンシップでは、あまり活躍できそうだと感じられなかったんですけど、農作物の生育診断のシステムを作るときに3Dプリンターで手作りしていたので、「3Dプリンターのテーマなら、わたしも参加できる!」と思ったんですね。

実際に参加してみると、会社の雰囲気もすごくよくて、工学部系ではないわたしの意見にも「むしろ違うことをやってきた人のほうが、新しい視点を持っているからウェルカム」という感じが伝わってきたので、ぜひ入社したいと思うようになりました。

益川先生の言葉に背中を押されて

Q. ものづくりに関わりたいという思いが受け入れられる場所だったんですね。ただ、記事を読んでいる後輩の中には、まだ「女性が理系に進んで大丈夫かな」と迷っている人もいると思います。藤川さんが、理系進学・理系就職に一歩踏み出せた理由は、何かあったのでしょうか?

父がメーカーに勤めていたので、家庭環境の影響もあるとは思います。でも、理系の勉強をしたいとハッキリ自覚したのは、文理選択をする前の、高校1年生のときでした。

その年、地元の名古屋大学で、ノーベル物理学賞を受賞された、益川敏英さんと「お弁当を食べながら勉強できる会」という催しがあったんです。

イベントの修了証を手に、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんと(提供:藤川実香さん)。

高校の掲示板に参加者募集のポスターが張り出されていて、「益川先生のサインがもらえる」とも書いてあったんですね。テーマは、量子力学に登場する「CP対称性」というもので、難しいものだったけれど、「なんかカッコいいし、有名人のサインがもらえるなら」と思って参加したんです(笑)。

Q. そこで、益川先生からどんなお話を聞いたんでしょう?

印象的だったのは、「自分は学校の勉強が嫌いで仕方なかったけれど、たまたま楽しい、興味深いと思えたのが物理学だった」というお話でした。「自分が楽しいと思える方向に進めばいいんだよ」というメッセージをいただいて、感銘を受けたんですね。

それで、あらためて自分は何にいちばんワクワクするんだろうと考えたとき、物事の原理を考えるのが好きなんじゃないかと気がついたんです。

Q. 「自分が楽しいと思えること」に向かっていった結果が、いまのお仕事に結びついているんですね。

そうですね。学校の勉強にしても、その先の社会生活にしても、人間って苦手とか不得意とか思ってしまうことに出会うと、それを避けようとしがちだと思うんです。たとえば、理系科目のテストの点数が伸びないと、理系には向いていないと思ってしまいますよね。

でも、益川先生がおっしゃったのは「楽しいと思えるか」でした。苦手とか不得意というのは、どうにか頑張ってカバーすることもできると思うんです。心に素直になって、興味があること、楽しそうだなと思う方向に向かっていくことは、決して悪いことではないと思います。

たとえば、自動車産業がガソリンエンジンの時代からEVの時代に変わっていっているように、これからのものづくりの現場では、新しい潮流が生まれて、柔軟な発想が必要になる場面が出てくるでしょう。どんな研究分野に興味を持っても、わたしがアイシンに出会えたように、きっと活躍できる場所があると思います。みなさんにも、ぜひ自分の「楽しい」を追求してほしいなと思います。

アイシンのことをもっと知りたいあなたにぜひ!
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