「科捜研」の存在を知らしめた功労者

写真/杉山和行
テレビドラマ「科捜研の女」シリーズは、1999年の放送開始から22年にわたって、累計254話が放送されてきた、日本では誰もが一度は見たこと・聞いたことがあるテレビ番組でしょう。

沢口靖子さん演じる主人公の榊マリコ(さかき・まりこ)は、アニメ「クレヨンしんちゃん」にも、あの白衣姿で「マリコおねいさん」(声も沢口靖子さん)として登場したほど。まさに世代を超えて愛される作品になっています。

その影響も大きく、小学生向けの雑誌の取材で実施した「将来なりたい職業は?」というアンケートでも、「科捜研」という回答が実際にあがってきたのを、筆者自身もみたことがあります。現実の科捜研を取材した際も「やっぱりあのドラマの影響は大きくて、私たちの職業の認知度がぐっと上がりましたね」と、職員の方が語っていたのが印象的でした。

【科捜研】 科学捜査研究所の略称。警視庁及び道府県本部の付属機関として設置され、犯罪の立証に不可欠な証拠を、法医学、生物学、化学、物理学などの科学技術を駆使して鑑定する。

今回は、この大人気番組が初めて映画化され『科捜研の女 -劇場版-』として9月3日に公開されることから、主演の沢口靖子さんへインタビュー。沢口さんご本人から科捜研の女である「榊マリコ」を、徹底分析していただきました!(インタビュアー: 若尾 淳子)

榊マリコのバッグ中身は白ハンカチと白手袋⁉

科学捜査研究員の榊マリコは、業務として事件現場に赴くだけでなく、プライベートでも頻繁に事件現場に遭遇する。マリコ自身が事件に巻き込まれたことも、1度や2度ではない。

そんなときでも、榊マリコは慌てず騒がず、現場にある重要な物的証拠を採取。彼女が自分のバッグから取り出した真っ白なハンカチで慎重に証拠物を拾い上げ、ジップ付きの小袋にそれを入れる。

初期のシリーズでは、マリコの普段持ちのバッグ(リュック)の中にはメイクポーチが入っていない(ほぼすっぴんで化粧直しの必要性を感じていない)というエピソードもあったが、現在のマリコのバッグにはどんなものが入っているのだろう?

「ズボラキャラのマリコですが、どこに行くときもバッグの中には新品の白いハンカチと、白手(しろて)。あ、私たちは白い手袋を白手と呼ぶんですね。あと、簡易鑑定キット(綿棒、証拠品の採集容器など)を必ず入れています。

若いころは、すっぴんに寝癖がついた髪で出勤していたマリコですが、大人の女性になった現在はTPOも身に着いて、最小限のメイク道具を入れたポーチも、きっと持ち歩いていると思いますよ(笑)」(沢口さん)

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

マリコは、いつも私服の上に白衣をファサっと羽織るスタイルで登場する。ボタンを留めずに開いている着こなしはマリコ流のこだわりがあるのだろうか?

「いえいえ、実はご遺体との対面シーンや、鑑定作業の時は、しっかり白衣のボタンを留めています。これはご遺体に対する敬意の表れで、服装を正して合掌した後にご遺体に触れるのがマリコの流儀ですし、鑑定中は、証拠品に異物が混入することがないように、しっかりボタンを留めています。意外とボタンを留めているシーンも多いんですよ。

マリコがボタンを留めていないのは、彼女がリラックスしているときや鑑定作業以外のことをしているときですね」(沢口さん)

颯爽と羽織った白衣をひるがえして現場に急行しつつ、大事なシーンではきっちりボタンを留めて研究者モードへ。これが榊マリコ流のたしなみなのだという。

3Kだって苦にならない。なぜなら科学大好きだから!

ドラマで見る科捜研の仕事はかなりハードだ。ドロドロの地面や血まみれの床にはいつくばって証拠物件を探したり、ゴミを片っ端から鑑定したり、遺体の解剖に立ち会った後、肉片や人骨、毒物の分析・鑑定作業を行わねばならない。

いわゆる「キツい」「汚い」「危険」が揃った3Kのお仕事ともいえ、肉体的にも精神的にも大変そうだが、マリコはストレスを抱えたり、食欲が失せたりすることはないんだろうか。

「ないんです(きっぱり)! マリコはそんなこと苦にならないんです。なぜならマリコは科学オタクですから! 科学を信じ、真実を突き止めたいマリコは、危険だったり汚なかったり、キツい作業にも、率先して突っ込んでいく人なんです。

また鑑定は非常に緻密で時間もかかる作業ですから、細やかさのほかに辛抱強さや根気も必要です。鑑定したものの大半が空振りな(証拠にならない)ことも多いですが、それにメゲずにチャレンジする精神的タフさも求められます。熱意がなければできない仕事ですね」(沢口さん)

榊マリコお気に入りは「ハンディ3Dスキャナー」

ドラマ内では、最新式の科学鑑定機器が数多く出てくる。機器名やその解説がテロップで示されるのも「科捜研の女」の定番で、これを楽しみにしている科学好きも多いと聞く。今まで扱った鑑定機器のうち、マリコを演じる沢口さんの印象に残っているものを聞くと「ハンディ3Dスキャナーですね」と即答。かなりお気に入りのようだ。

「これは身元不明のご遺体をスキャンして、生前のお顔を立体的に復元する装置です。たとえ遺体が白骨化していても、かなりリアルに生前の状態が分かります。また顔の正面だけでなく360度スキャンしてデータ化していますから、防犯カメラなどに映った不鮮明な横顔画像とも照合することができるんですよ」(沢口さん)

鑑定機器について、楽し気に、少々早口で説明する様子は、ドラマ内のマリコそのもの。ちなみにドラマに登場するこれらの鑑定機器は、実際に捜査で使用するもので、その多くは島津製作所が提供しているという。

ドラマで使用された高速液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計、フーリエ変換赤外分光光度計のほか、撮影現場の裏側にも迫っている島津製作所のページはこちら!→https://www.shimadzu.co.jp/shimadzu-lp2/
(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

「今回の映画にも、最新の鑑定機器が登場するんですが、これが非常に高額で、実際に使用する科捜研で映像解析などを行う涌田亜美役の山本ひかるちゃんはドキドキだったとか。どんな機器かは、映画を観てのお楽しみです♡」(沢口さん)

ひとつずつコツコツと積み上げていく姿勢は共通点

ここで沢口さんとマリコの共通点について聞いてみた。

「マリコは科学を心から信頼し、科学的な事実をひとつずつ積み上げて真実にたどり着きます。私は俳優ですが、細かく台本を読み込んでコツコツ演技を組み立てていくタイプなので、そこはマリコと共通していると思います。

ただしマリコは私生活では非常にズボラな人ですが、私は片付けが大好きな几帳面タイプ。ここはマリコと私の最大の相違点だと思います」(沢口さん)

でも長年マリコを演じていると、実生活でもついマリコっぽい面が出てしまう点もあるのでは?

「あー、面識のない方を分析してしまったことがあります(笑)。新築の友人の家に遊びに行ったとき、インテリアの話題になりインテリアコーディネーターさんが勧めてくださったというある家具を見て、私は思わず「それはきっと〇〇というお考えで、△△だからこの家具をお勧めくださったんじゃない」と言ったら、「まるでマリコさんみたい」と。

友人はうなずきながら笑っていたので、けっこう当たっていたんじゃないかしら……」(沢口さん)

マリコが尊敬する科学者は「失敗の天才王・エジソン」

沢口さんは、台本に新たな専門用語や機器が出てくるたびに、監督やプロデューサー、科学捜査シーンを専任で担当する助監督などに説明・解説してもらい、その用語や知識をしっかり「自分のもの」にしてから、演技することを心掛けている。

役作りのために、実際に科捜研で働く女性に会ったことはあるのだろうか?

「役作りというわけではないんですが、ドラマが始まった後で、大阪府警の科捜研の女性にお目にかかって、対談したことがあります。話してみると科学の知識が豊富でとても知的な方でしたが、パッと見は、いたって普通なイマドキの女性で、マリコのようないわゆる『オタク』っぽさは全然なかったです。本物の科捜研研究員である彼女に『(ドラマを見て)マリコさんに憧れて、科捜研に入りました』と言われたときは、とっても感激しました」(沢口さん)

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

最後に、沢口さんにマリコをプロファイリングしてもらった。

「マリコは自分の仕事に誇りを持ち、科学を信じて真実を追い求める人です。現実の捜査は、ドラマほど簡単ではなく、多くの失敗や空振りもありますし、膨大で地味な作業を長時間繰り返すことでやっと真実にたどり着きます。

発明王エジソンは、人類に役立つたくさんの発明をした科学者ですが、数え切れない失敗を繰り返し、それでも諦めずに成功を手にした不屈の人で、マリコはそんなエジソンの姿勢を科学者の鑑として尊敬しています。

『科学は人を幸せにするためにある』と信じるマリコが、失敗しても諦めずに試行錯誤しながら分析に取り組む必死な姿は今回の映画の見どころで、コンパクトな通常のテレビドラマにはないマリコの一面がご覧いただけると思います。

そんなマリコの一途さは、ときに周りを巻き込んでしまいますが、科捜研の仲間は文句を言いつつもそれぞれの能力をフル発揮してともに真実を追い求めてくれます」(沢口さん)

よどみなく一気に語る沢口さん。ときどき目の前にいる人がマリコなのか、沢口靖子さんなのかわからなくなる。
理系女子を演じつづけ、科学で犯罪に立ち向かう人々の懸命さに触れてきた沢口さん。そんな沢口さんたちが作り上げた「科捜研の女」の中には、科学の世界に踏み出したいみなさんが、一歩前に踏み出すためのヒントが詰まっているかもしれない。

上映情報

(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

映画「科捜研の女 -劇場版-」は、9月3日公開。9月4日には、公開記念舞台挨拶が丸の内TOEIにて開催(9時30分の回の上映終了後)され、全国の劇場で生中継も予定している。
沢口靖子、内藤剛志、若村麻由美、風間トオルらレギュラーキャストを始め、ゲストとして佐々木蔵之介も出演。科捜研の研究員たちが世界同時多発科学者不審死事件に挑む。
https://kasouken-movie.com/

※注:「榊」の字は木へんに神が正式表記