2020年7月13日に、資生堂「女性研究者サイエンスグラント」受賞研究者WEB交流会が開催されました。例年は授賞式が開催されますが、今年は新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインでの交流会という形での開催となりました。

資生堂女性研究者サイエンスグラントとは?

女性研究者サイエンスグラントは、今年で13年目となります。その目的は、女性研究者の研究活動を支援し、指導的な立場を担う人材を輩出することです。また、対象領域を資生堂の事業に関わる分野に限らないことや、助成金を研究費以外のベビーシッター代などにも使えるように用途を定めないということが特徴となっています。

今年の10名の受賞者の研究領域も、材料工学、生物学、薬理学、宇宙地球化学など、多岐にわたっており、研究活動に加え大学での男女共同参画活動などに携わっている方や、子育て中の方などもいらっしゃいます。

受賞にあたっての挨拶では、

「なかなか自分の研究価値が認められない中、価値を認められたようでうれしかった」(昆虫のくちくら(外側の殻)や宇宙微細微粒子の解析などユニークな取り組みをされている先生)

「数年前から練っていたアイデアが受賞のおかげで着手できるのがうれしい」

といった声もありました。

過去の多くの受賞者の方は、この賞をきっかけに新しいポジションに進んだ、PI(principle investigator)になった、研究活動が広がったといったことをおっしゃっています。まさに、それぞれの女性研究者の価値を認め、キャリアの扉を開いていく賞となっています。

【資生堂 島谷庸一副社長の挨拶の様子】

コロナ危機禍に女性研究者はどう過ごした?

後半は、「コロナ危機渦中の研究活動と女性研究者の暮らし」というアジェンダで、過去の受賞者の方々も参加しての意見交換となりました。

話題提供は、
・長岡技術科学大学 溝尻瑞枝先生(第10回受賞者)
・大阪大学 丸山美帆子先生(第11回受賞者)
のお二人です。

社会全体に影響を与えているコロナウイルスの感染拡大ですが、大学でも研究や研究室運営に影響がでています。

一番はやはり、外出自粛による研究の中断といえます※1。都心の大学では最近になってやっと研究室活動も元に戻ってきた状況ですが、溝尻先生の長岡技術科学大学では、新潟県にあまり患者がでていなかったこともあり、比較的中断せずに研究が進められたそうです。

地域によって研究の取り組みに差があることが交流会の意見交換の中でもでていました。コロナウイルスの感染拡大がきっかけで、地方で研究活動をすることのメリットが改めて見直されていくかもしれません。

また、研究室運営といった意味では、研究室で学生と朝から晩まで一緒にいられる状況でなくなったことから所属の学生とオンラインやSNSを使ってまめにコミュニケーションをとるようになった、ゼミや学内会議もオンラインで効率的に取り組めるようになったという声もありました。

大学の研究や研究室運営においても、オンライン活用の効率化が進むとともに、会って話せないからこそ、チーム内でコミュニケーションが重要とされているようです。

【交流会の様子】

PIとなり研究室を持つと、ご自身の研究内容だけでなく、こうした研究室の学生やメンバーの育成・ケアも重要な仕事であることもわかります。もちろん、自分の主宰する研究室で学生やメンバーが意欲をもって研究できるよう環境を整えることは、自分の研究の推進・成果につながっていきます。

一方で、小さいお子さんのいる先生方は、保育園も小学校も休みとなり、家庭で子どもの生活&勉強の世話をしながらと、大変な思いをされていたようです※1 ※2

話題提供をされた大阪大学の丸山先生もそのお一人です。なかなか在宅で仕事が思うようにはかどらないという焦りもあったそうですが、今は、研究ができなくても、家庭で子どもに向き合い、家族の結びつきを強固にする時間、オンラインで色々なセミナーや勉強会などに参加して研究活動以外の人と交流し学ぶ時間だと割り切ったそうです。

この期間の学びや家族との関係・習慣が、今後の研究活動の土壌を固めたとのこと。思うように研究ができない中でも、色々と視点や捉え方を変え、次につなげていくのはさすがです。

参加者の中には、家庭で仕事をしている姿を子どもに見せることができたのがよかったとおっしゃる先生もいらっしゃいました。大学の先生といえども、子育てと仕事の両立に悩みながら仕事を進めているのは、他の子育て世帯と同じといえます。

さらに、コロナの自粛期間中に何をしていたかという質問では、圧倒的に「論文執筆」という方が多かったです。研究者の皆さんがそうだったのか、自分の論文を書こうと思っていたら査読依頼がたくさん来て困ったという先生も。

色々な混乱を招いているコロナウイルスの感染拡大ですが、大学の研究活動において、
・オンラインという大学での新しい教育システムの導入のきっかけとなった
・オンラインを活用することで会議など効率的に進められた
・これまで当たり前にできていた「実験」などの研究活動や「実習」のありがたさを感じる機会となった
・限られた時間で集中して研究を進められるようになった
・仕事を進めていく上で、改めて家族との関係に向き合う時間となった

など、コロナ禍での経験をプラスとして考える方も多かったように思います。

昨年度は授賞式に参加し、女性研究者のみなさんの前向きさに圧倒されましたが、今年もオンラインであっても皆さんのパワーを感じました!

コロナ禍で女性研究者としての苦労や、社会のまだまだある性別役割分担意識が露呈しましたが、今年の交流会をきっかけに、今後もSNSなどで同じ想いと志を持っている女性研究者同士でつながっていこう!という話しも出ていました。

受賞者の皆様のますますのご活躍を期待したいと思います。

資生堂女性研究者サイエンスグラント 
https://corp.shiseido.com/jp/rd/doctor/grants/science/index.html

〈参考〉
※1 男女共同参画学協会連絡会「緊急事態宣言による在宅勤務中の科学者・技術者の実態調査結果報告(2020)」では、全体の約6割(研究生活に不安があると回答した人の中の73.4%)が、研究生活の不安なこととして「実験や調査の内容・質」を挙げています。
また、現状における勤務上の支障について、「育児の増加」「家事負担の増加」を女性の方が男性よりも多く選択しています。
https://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2020/survey_covid-19/index.html

※2 全国ダイバーシティネットワーク「『Stay Home!』女性研究者たちはどうしている?!」のサイトでは、女性研究者が緊急事態宣言の自粛の中でどのように過ごしていたかが紹介されています。
https://www.opened.network/sp/

取材/文 株式会社エンパブリック 矢部純代