これからの時代は、女性もどんどん科学技術分野に進んでいく時代。脳科学者として名高い茂木健一郎さんに、これからの科学技術の研究にいかに女性がかかせないかを聞いてみました!

 

最初のプログラマーは、女性だった!

僕が最近色々なところで言っている問題に、「理数系に女性が来ない」という問題がある。これは特に日本で顕著なのだが、ジェンダーバランス的にも大問題なのだ。

19世紀半ば、チャールズ・バベッジが「解析機関」という機械式のコンピュータを作成した。このとき、人類史上初めて「プログラマー」となったのがエイダ・ラブレスという女性だ。

最初のプログラマーのエイダ・ラブレス

バベッジを含む当時の男性研究者は、コンピュータを「ベルヌーイ数を求める」というような計算に用いることしか頭になかった。だが、エイダは、コンピュータが今でいうコンピュータグラフィックスだとかデスクトップミュージックだとかに利用可能であるということを論文に記している。女性が理数系を苦手にしているというのは単なるジェンダー・バイアスに過ぎないのだ。

最近だと日本でも新井紀子さんなど活躍している女性研究者が増えている。僕は「リケジョ」という言葉があまり好きではないのだが、このような人をもっともっと増やしていくことが大切だと思う。

 

正体不明のビットコインの発明者。もしかしたら女性だったかもしれない

科学研究に民間の力がいかに必要なのかを示す例として、サトシ・ナカモトが2009年に書いたブロックチェーンの論文がある。いまだにサトシ・ナカモトの正体はわかっていないが、この匿名の論文がブロックチェーンの時代を築き上げたのだ。しかも、この論文は査読付きの学術雑誌に掲載されたものではなく、ネット上にアップロードされたものだ。

今、物理学や数学の分野においては、arXivというプレプリントサーバーに論文をアップロードするという発表形態が主流になってきている。

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余談だが、ポアンカレ予想を証明してフィールズ賞を送られるも辞退したペレルマンの書いた論文もそれに載っているだけで、雑誌には載っていない。それがフィールズ賞の対象になるような時代になってきているのだ。

閑話休題。そのような意味で、このサトシ・ナカモトの論文は素晴らしい。サトシ・ナカモトが誰なのかはわからない。そもそも日本人なのかもわからない。

そこで、インターネット上では「SATOSHI IS FEMALE」というTシャツが流行っている。サトシ・ナカモトは誰だかわからないのだから、もしかしたら女性かもしれないじゃないか、ということだ。女性がプログラミングやAIといった分野に進出していくべきだ、ということでこの文言が載ったTシャツやマグカップが販売されているのだろう。

 

女性研究者がいないと研究が歪んでしまう

ジェンダーバランスを考える際にしばしば言及されるデータとして、分野ごとの平均IQというものがある。これを見ると、数学や物理、コンピュータサイエンスが最も平均IQが高いようだ。では、これらの分野に女性がどれだけ参画しているのかを調べてみると、平均IQが高い分野ほど女性率が低い。生物学的に見ると平均IQは男女で変わらないはずなのだから、これはおかしい。

 

 

アメリカですらこのような傾向が存在してしまうのだ。なぜこのような現象が生じるのかと言えば、女性が自分が「賢い」ことを隠す方向に社会的プレッシャーがあることが指摘されている。男性は、一般に女性に対して知的優位にある方が心地よく感じるらしい。

男性の中には、女性の知性を低く見積もって延々と説明する人がいる。男(man)と説明(explain)を合成して、「男が説明すること」(mansplaining)という単語が生まれているほどだ。このため、女性は、男性に対して、実際よりもものを知らないように振る舞う傾向がある。その方が「男性ウケ」がいいのだ。

このような社会的状況があるために、女性は、高い知性が必要とされるというイメージのある分野を避けるのかもしれない。

このような事態は一刻も早く変えていかなければならない。

今の科学研究では、たとえば遺伝子組み換えやデザイナーベイビーといった生命倫理に関わるような研究をする際には、さまざまなジェンダーからの視点が必要になってくる。そうでないと科学研究として偏ってしまう恐れがあるからだ。なので、女性研究者がもっとたくさん研究現場にいる必要がある。

脳科学関連の例を一つ出そう。「魅力的な顔はどのようなものなのか」という研究が存在しているのだが、このテーマに使われるデータセットに、なぜか女性の顔が使われているという事例がある。やはり無意識のうちに男性研究者目線が染み付いてしまっているのだろう。このようなことを防ぐためにも、多くのジェンダーの視点が必要なのだ。

 

才能を埋もれさせてはいけない

それに、男女関係なくものすごい才能を持った人が隠れて出てこれないとなると日本の科学にとって損失になる。最近インターネット上で話題となった人物に、「ラマヌジャンに並ぶ」と称された仙台の天才女子高生がいる。

彼女はフィボナッチ数列の総和が-1であることを独自に直感的に見つけるなど、あふれんばかりの才能を抱えている。このような天才に、男性・女性は関係ない。女性は人口の半分存在しているわけで、その半分を活用できないような科学技術立国というのはまずいだろう。

まだまだジェンダーの役割が固定化されてしまっている日本で、格好いい「リケジョ」が発掘されなければならない。
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