理系職種の方々はどんなふうに働き、子育てをしているのか──。東京農工大を卒業してMR(医薬情報担当者)になった浅倉絵梨奈さん(34)に、キャリアの経緯をふまえて、リアルな子育て事情を聞いてみました。

 

生物の基礎知識とコミュニケーション能力を活かす、MRという選択

──まずは、お子さんが生まれるまでのことを簡単に聞かせてください。学生時代からこれまでは、どんなキャリアを辿ってこられましたか?

昔から生物の授業が大好きだったので、大学は東京農工大の応用生物科学科を選びました。修士まで進んだこともあり、卒業後は研究職に就こうと考えていましたが、就職活動をするうちになんだかしっくりこない自分に気づき……。たぶん、大学からずっと研究を続けていたので、ある程度気が済んだのかもしれません。

そこであらためてどんな仕事をしようか考え直してみたら、そのときにしていた接客や販売のアルバイトが楽しくて! 人と関わったり、話したりする仕事に興味を持ち、理系の営業職を探すようになりました。そして、これまで積み重ねてきた生物の知識も活かせるMRとして、外資系の製薬会社に就職したんです。

実際に、専門的な知識は業務でとても役立っています。人体の構造を知っているから、遺伝子解析の深い話なども、医師を相手にちゃんと話せる。「大学院で生物を研究していた」と言うだけで、興味を持ってくださる方もいる。それで人間関係ができたり、信頼していただくことは少なくない気がしますね。

妊娠期を乗り越えられたのは、周りのバックアップがあってこそ

──そんなお仕事をされているなか、妊娠がわかったのはどんなタイミングだったのでしょうか。

妊娠がわかったのは、入社8年目の冬です。ずいぶん仕事に慣れてきて、医師の役に立てている実感もおぼえてきたころ。同じ担当エリアで4年間を過ごし、職場や訪問先での人間関係も充分にできあがってきていたタイミングでした。妊娠経過も順調だったし、周りがとても理解を寄せてくれたので、働きづらいと感じたことはありません。営業は自分で予定を調節できるから、体がしんどいときには休み休み働けたのもよかったと思います。

──とはいえ、キャリアに不安はありませんでしたか。

もちろんありました。仕事が大好きだったし、現場を離れてちゃんと復帰できるのか、そもそも保育園に入れるのかなど、考えれば不安ばかり。でも、産休直前に昇進できたのが、大きなポイントだったように思います。もともと昇進の話はあったけれど、妊娠したことを伝えたら白紙になるかなと思っていて……。でも、会社はちゃんと評価をしてくれた。そういうバックアップもあったし、ママさんMRの先輩方もたくさんいたから、すこし不安がやわらいだ状態で産休に入ることができました。

双子だったので、やや早めに妊娠7ヵ月ごろから産休に突入。0歳児からなんとか保育園に入園できたため、育休を切り上げて復職しました。

学生時代に身につけた知識が、スムーズな復職にもつながった

──復職をしたときは、いかがでしたか? MRは文系でも就ける職業ですが、理系の知識を持って働いていたことが、こういうときにアドバンテージを生むものでしょうか。

休んでいる間は簡単な言葉が出てこなかったり、頭が回らなくてすぐに会話が止まっちゃったりしていたから、やっぱり不安は大きかったですね。でも、予想よりもはやく勘が戻ってきたのは、確かに知識の下地があったことも大きいと思います。

復職後はまず、産休育休中に発表された論文のチェックをスタート。2週間ほど内勤をして、集中的に勉強の時間を取り、遅れていた情報を取り戻すことから始めました。膨大な文献をどうしようかと思ったけれど、そこは理系のスキルが役立つところ。文献の検索や読み方といった作法は学生時代にたっぷり鍛えられていたので、作業がスムーズでした。

ただ、復職当初は時短勤務の制度がなくて……。営業だから、自分でフレキシブルに調整してうまくやってね、という感じ。時短ではどうしても行けない訪問先が出てくるため、それはそれで理にかなっているんですけど、時間のやりくりは苦心しました。でも、訪問先の先生方も協力してくださるため、いまはなんとかなっています。確かに勤務時間は減っているけれど、ぎゅっと凝縮して働けているなと思いますね。

いまは、仕事と育児の「いいとこ取り」

──仕事のほうは、順調にスイッチが入ってきたんですね。子育てとの両立という面ではいかがでしょうか。

うちの会社でも最近パイロット的に時短勤務制度が始まったので、今は特別なアポがない限りは16~17時に退社をしています。夫も19時半には帰ってくるので、家事も育児も分担。もちろん、どちらかが夜に外出しなければいけないときは、もう片方が家のことをします。夫もMRだから、仕事には理解があるんですよね。このあいだ私が大阪に一泊出張したときも、夫が問題なく子どもを見ていてくれました。

やることがたくさんあって大変ではあるものの、いまは「いいとこ取り」をしているような気分なんです。仕事ばかりしているのもつらいし、四六時中子どもと過ごすのもしんどいと思うけど、実際はオンとオフのメリハリがあるから、どっちも楽しくできています。仕事が終わって保育園に行ったとき、笑顔で迎えてくれる息子たちを見ると、とっても幸せな気分になるんです。

子どもを産む前は飲みに行ってばかりいたから、夜が終わるのもあっという間(笑)。それに比べれば、いまはむしろ1日が長くなったような気さえしていますね。時間を効率的に使う意識が身についたおかげで、タスクの先延ばしもなくなったから、毎日すごく充実しているんです。

──双子の育児は大変というイメージがあるけれど、浅倉さんは本当に楽しそうに仕事と育児を両立されていますね。

うちの子たち、夜泣きもしないしいっぱい食べるし、たぶん育てやすいんだと思います。2人で仲良く遊んでいて、一緒にいると泣き止んだりもするんですよ。もともと子どもが3人ほしかったんだけど、年齢的にちょっと難しいかなと考えていたら、まず双子! もう1人くらいならもしかしていけるかも、なんて思ったりもしています(笑)。

──浅倉さんなら、3人の子どもを育てながらでも立派にお仕事をこなしていきそうです。では最後に、今後の目標を教えてください。

子どもを産むまでは、マネージャーになるとか昇進するとか、そういうステップをあまり考えていませんでした。現場で医師の役に立つことで、すこしでも医療に貢献できるようになれたらいいと思っていて……。でも産後は、長く勤めていくために、会社でどんなふうに働くかを考えるようになりました。たとえば、現場での経験を活かして研修をやってみたり、本社に入って会社を内側から支えたり。あとに続く女性社員のために、働きやすい環境を作っていくことにも興味が出てきたんだと思います。

妊娠中にも復職前にも、やっぱりたくさんの不安がありました。でも、過ぎてみればどれもたいしたことがなくて……。実験の工程みたいに先のことをイメージしすぎると、あれこれ気になっちゃう。だからいまは、自分のためにも、あとに続く方々のためにも、なんとかなるって気持ちで前に進んでみるのがいいのかなと思っています。


仕事と育児を両立するための悩みや喜びは、文理にかかわらず共通するものがほとんど。それぞれの分野でどんなママもベストを尽くしているということなのでしょう。浅倉さんは、大学院時代に身に着けた論文を読みこなす力が大いに助けになっているようですね。専門知識を医療現場に提供するプロフェッショナルとして引き続き頑張ってください。

リケラボはこれからも、仕事や研究に役立つ情報の発信を通じて、働くパパ・ママを応援してまいります!

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(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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