多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、やりがいと誇りを持てるはたらき方を探るリケラボの「理系のキャリア図鑑」シリーズ。

今回取材にご協力いただいたのは、セラミック技術のリーディングカンパニー、日本ガイシ様の広報部門です。

広報部門は、自社のことを正しく世の中に知ってもらうために様々な情報を発信していく部署。幅広い広報の仕事ですが、今回は身近な科学実験がたくさん紹介されていて、子どもから大人までファンの多い「NGKサイエンスサイト」の運営を担当されているコーポレートコミュニケーション部の中居友紀さんにお話を伺いました。

中居さんは生物専攻で、研究職としてはたらいていた経験もおありとのこと。

NGKサイエンスサイト制作の裏側のお話をお聞きしつつ、ものづくり企業における広報の仕事の魅力について教えていただきました!

 

日本ガイシ株式会社
電線と、その支持物である電柱や鉄塔などを絶縁する、電力用のがいし製造を主力とする企業。ほかにも自動車排ガス浄化用セラミックス、半導体装置製造用セラミックス、電子機器用セラミックスなど、独自のセラミックス技術や製品を展開している。2019年には創立100年を迎えた。
NGKサイエンスサイト(https://site.ngk.co.jp/)は1997年に開設。多彩な科学実験をサイトや雑誌広告で紹介してきた。2021年にフルリニューアル。新たな切り口で科学の魅力を発信、そのクオリティの高さから、さまざまな賞を受賞している。 第57回JAA広告賞グランプリ 第63回の科学技術映像祭 部門優秀賞(教育・教養部門)、つくば科学万博記念財団理事長賞受賞 など。

 

生き物からスイーツまで、多様な話題で科学の楽しさを伝える「NGKサイエンスサイト」


──NGKサイエンスサイト、とても楽しくてためになるサイトですが、こちらを担当されている中居さんに、本日はサイトのこと、そして広報の仕事について、いろいろとお話を伺いたいと思います。

私が所属しているのはコーポレートコミュニケーション部、いわゆる広報部門です。WEBサイト、TVや雑誌広告、メディアの方々へのリリースの配信など、様々な手法で情報発信をしています。社会の多様な方々とのコミュニケーションを通じて、日本ガイシという会社を知っていただき、また受けとった社会の声を、社内に伝える大切な役割を持った部署です。コミュニケーションの相手は社外だけではなく、社内報を通じて経営トップのメッセージを全社に伝えたり、各部門の取り組みを紹介したりするなど、社内のコミュニケーションを促進することも役割の一つです。

「NGKサイエンスサイト」は、科学の楽しさをWEB上で発信することで、日本ガイシが科学を大切にしていること、科学の知見と技術を通じて世の中に貢献していることを知っていただければ、との想いから運営しています。

提供:日本ガイシ

 

──いまでこそ、数多くの科学サイトがありますが、そのなかでもNGKサイエンスサイトはとても歴史がありますよね。

NGKサイエンスサイトは1997年にスタートしました。科学雑誌の「Newton」に、科学実験を紹介する広告記事を掲載したのが始まりです。「Newton」の読者は科学に関心のある人ですので、科学実験を通じて科学の楽しさを伝えつつ、当社のことを知っていただこうという意図でした。当社の製品は、自動車や電子機器の部品など実は皆さんの身の回りにあふれているのですが、一般消費者の目に触れにくいところで使われています。どうすれば、多くの人に日本ガイシという会社を知ってもらえるだろうか、と考えたうえでの取り組みでした。学生さんに知ってもらって、ぜひ当社に応募していただきたい、という願いもありました。


──会社名を前面に押し出した広告ではなく、科学実験を紹介する形にしたのはなぜなのですか?

私たちがものづくりの会社だからです。ものづくりが面白い、好きだという人が集まっている会社だからこそ、子どもたちに「科学は面白い」と伝えたくて、こういう形になったと聞いています。100円ショップで手に入る材料で、子どもが家庭で手軽にできる実験というのがコンセプトでした。当時の雑誌広告としては珍しくWEBサイトと連動した企画で、より詳細な手順をWEBで閲覧できる形をとりました。


──当時の反響はどのようなものだったのでしょうか。

広告を見た読者から、「うちにはPCとプリンターがないので、実験の詳細な手順をFAXで送って欲しい」といった問い合わせが多数来たそうです。インターネットが今ほど発達していない時代ならではのエピソードですね。その後時代の変遷とともにネットが中心になり、現在は取り上げる実験やテーマも増え、YouTube動画でも発信しています。


──そんな歴史あるNGKサイエンスサイトですが、大幅なリニューアルを行われたとか。

2021年6月にリニューアルを行いました。従来は、実験や工作ということで、夏休みの自由研究の時期に小学生やその家族の来訪が集中していました。そこで、今回のリニューアルでは新たに大学生ぐらいの年代の方が見ても面白く、読んでも楽しめる、そして理系の人以外にも科学の面白さを感じてもらえるコンテンツを増やしています。


──サイトはいくつかのカテゴリに分かれていますね。

リニューアルで「フシギなTV」と「おいしいフシギ」の2つのコンテンツを追加しました。

「フシギなTV」は、一言でいうと、身近なモノ・コトを、科学とSDGsの観点からとらえて動画として発信しています。分子生物学者の福岡伸一博士に監修いただいていますが、先生は幅広い分野に造詣が深いので、生き物や自然現象だけでなく、歴史やアートなどさまざまなジャンルの疑問を科学的に取り上げています。

提供:日本ガイシ


──本当に様々なジャンルの話題がありますね。動画も3〜4分で気軽に見られますし、サイトに載っている先生の解説もとても面白いです。それに、自然環境や命の大切さがとてもよく伝わってくる内容です。

サステナビリティは、今でこそすっかり世界共通の大切にしていくべき価値として浸透していますが、当社が100年前の創立当時から、ものづくり企業として大事にしてきたこともまさにそのことなのです。科学の不思議さ・面白さと同時に、当社が製品や技術を通じて、未来にわたって豊かで幸せな世の中が続くことへ貢献していきたいという想いを伝えようと考えた結果、このようなコンテンツとなりました。

 

提供:日本ガイシ

 

──もう一つの「おいしいフシギ」は、キラキラスイーツが美しく、とても目を惹きます。

ケーキデザイナーで芸術教育士でもある、太田さちか先生と、東京理科大学教授の山本貴博先生に監修いただいています。これは私のスイーツ好きということも多分に影響していますが(笑)、理科にあまり興味がない人にもサイエンスを楽しんでいただきたいと思って企画しました。

 

提供:日本ガイシ

 

──「120秒の科学」も、家で子どもにやって見せてあげたくなる実験が、美しい映像と音楽でとてもスタイリッシュに表現されていますね!

これは当社が提供させていただいたテレビ番組映像をアーカイブしたものですが(2020~2022年にテレビ大阪とテレビ愛知で放送)、ハイスピードカメラやズームレンズなどの撮影技術を駆使し、科学の面白さをナレーションのない美しい映像で表現した意欲的な作品です。起案から携わらせていただきましたが、テレビの制作会社様との共同作業は、私の中でとても貴重な経験となっています。(編集部注:「120秒の科学」は、科学技術映像祭で部門優秀賞とつくば科学万博記念財団理事長賞をダブル受賞)

 

 

理系・文系を問わず幅広い人に最先端の科学を届け、面白さを伝えたい


──実際の制作はどのように進められているのでしょうか?

監修の先生とともにテーマを検討することから始めます。監修の先生の豊かな知見に加えて製作会社やデザインの方、カメラマンまでみんながそれぞれの視点で知恵を出し合うことで、アイデアの幅が広がっていくいい循環ができています。当社も個々の自由な発想とチャレンジ精神を大切にしており、社内外の力を結集することで、新たな価値を生み出す。そんな当社のモノづくりに対する想いが透けて見えるような作品を心がけていて、例えば「フシギなTV」では自然との共生や生物多様性、サイエンスでより暮らしを豊かにしよう、といった視点を盛り込むようにしています。


──ほかにもこだわっていらっしゃる点はありますか?

やはり「質」ですね。ものづくりの会社として、質の高いものを作るというのは、製品であってもコンテンツであっても変わりません。また、「科学って楽しい」「科学者ってかっこいい」と思ってもらいたいので、ビジュアルにもかなりこだわっています。例えばスイーツのコンテンツは、SNS映えするようなかわいい見た目にすることで、理系・文系を問わず多くの若い方々に見てもらい、サイエンスの面白さに触れるきっかけになればと思っています。


──本当にどれもとてもキレイです。その上で科学のフシギやトリビアが無理なく伝わります。

ビジュアルだけではなく、「科学の今」が伝わる解説コラムにもこだわっています。最先端に触れることが科学の魅力を伝える一番の近道だと考えているので、皆さんの興味をできるだけ先取りして、難しい先端科学を日常レベルに落とし込み、より良い未来に思いを馳せるようなコンテンツを心がけています。

スモークをたいて、放物線の軌跡を視覚的に表現しようと模索しているところ
提供:日本ガイシ

 

仕事から元気をもらい、ますます科学を好きになる


──中居さんは、大学でのご専攻は何だったのでしょうか。

理学部です。植物生理学を専攻し、培養細胞を用いて植物が害虫や農薬などの環境ストレスで活性酸素を生成し枯死するメカニズムや抗酸化成分について研究していました。

──学校を卒業してすぐに広報の仕事についたのですか?

最初は研究職でした。抗酸化成分や蚕のシルクペプチドの研究をしていましたが、会社の業績が思わしくなく仕事が続けられなくなってしまい転職しました。広報の仕事に出会ったのは、その二社目の時です。企業のPR(広報)についてコンサルティングを行う会社で、食品会社や化学メーカーの担当となり、トクホ(特定保健用食品)の機能性や、遺伝子組み換え食品や放射線照射など新しい技術の安全性について、担当した企業と消費者とのサイエンスコミュニケーションをサポートする仕事です。

研究者として「いいものを開発すれば、きっと世の中の役に立つ」と思っていた私にとって、ショックでした。素晴らしい開発でも、伝え方を間違えると受け入れられないことがあることを目の当たりにしたのです。伝えるプロとしての広報の仕事の大切さを実感しましたので、その後、家庭の事情で名古屋に転居したときも再び広報の仕事を求めました。タイミングよく当社で広報職を募集していたので応募しました。

──科学的で専門的な内容を一般の方にわかりやすく伝える仕事は、理系の学びが活かせてやりがいがありそうですね。 

はい。研究者は自分の専門分野については精通していますが、必ずしも、一般の方や記者へ分かりやすく伝えることが得意な人ばかりではありません。そこで広報が、相手の立場に立って最適な内容と方法、タイミングで情報を届けるのです。当社の広報メンバーは皆、自分の伝え方一つで受け手の印象は大きく変わってしまうのだ、という自負を持って働いていると思います。

──広報のお仕事の魅力はなんでしょうか?

広報は社内外をつなぐ役割のため、社内だけでもあらゆる分野の研究者やエンジニアと関わり、大学の先生やお客さまといった科学分野の方から、クリエーターやライターのような制作会社の方々まで実に幅広くいろいろな方と一緒にはたらく機会があります。研究者だったころは、自分の専門分野以外の方と接する機会は少なかったのですが、広報担当になってからの多くの出会いは、仕事面での幅を広げてくれただけでなく、自分の内面も豊かにしてくれたと思いますし、新しい世界との出会いから多くの刺激や感動をいただきました。また、ビジネスでは競合する会社であっても、こと広報業務に関しては情報発信のやり方や悩みなどを、広報担当同士で相談しやすいように思います。利害関係を越えて協力しあえる仲間ができることもまた、広報の魅力です。


──お話を聞いて、科学を伝える仕事にとても興味が湧いてきました!

そう思っていただけて嬉しいです。社内外のいろいろな分野のプロフェッショナルに会い、最先端の科学に触れ、仕事から元気をもらい、ますます科学が好きになっていきます。ものづくり企業での広報の仕事とは、そんな魅力的でやりがいのある仕事です。

 

中央の立っている人物が中居さん
提供:日本ガイシ

 

<リケラボ編集部より>

企業の広報というと、文系職のイメージが強いかもしれません。しかし、モノづくり企業をはじめ科学をベースにした事業は思いのほか多く、そういった業種では自社の技術や製品、サービスを正しく伝えるために理系出身者が活躍しているケースは少なくありません。

今回ご登場いただいた日本ガイシ様は、製品・技術情報だけでなく、科学サイトという形で、科学への愛とリスペクトに溢れた企業姿勢をとても素敵に発信されています。中居さんをはじめ関わる社員の皆様の気持ちがこもったコンテンツだからこそ、多くの人の支持を集められているのですね。

企業の想いは、自社のサイトや広告にも現れるもの。こうしたクリエイティブな職種にも理系のチカラが活かせる場面がたくさんあるということを、この記事を通じて知っていただけたら嬉しいです。

中居さん、日本ガイシ様、取材にご協力くださり、誠にありがとうございました。

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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