四反田先生

みなさんは普段、汗をかいていますか? 
 
暑いときや運動時に流れる汗、単なる老廃物……と思いきや、エネルギー源として活用してしまおう! というのが今回ご紹介する研究成果です。
 
東京理科大の四反田准教授が昨年発表した「和紙に特殊なカーボンで印刷した紙の電池」。和紙を基板材料に汗を利用して発電します。紙の薄さを活かしてウェアラブル型デバイスに活用し、健康管理に役立てるなどいろいろな用途が期待されています。
 
電池として十分な出力を得るまでの研究過程や、研究室が一丸となった実験の積み重ねなど興味深いお話をたくさんお伺いすることが出来ました。

材料は紙と炭素と酵素。手軽で大量に作れるバイオ燃料電池に挑む

——先生が開発された和紙を使ったウェアラブル電池とは、どのようなものなのでしょうか。

人の汗中にある乳酸をエネルギーとし、和紙に導電性のカーボンと、多孔性炭素電極をスクリーン印刷した、高出力の薄膜型ウェアラブルバイオ燃料電池アレイです。従来の乳酸バイオ燃料電池に比べ、高い出力を出すことが可能です。

——バイオ燃料電池というと、最近研究が急速に進展している印象です。脱炭素のためのテクノロジーとしても注目が集まっています。

バイオ燃料電池は、酸化還元をする酵素を使って、酵素や微生物が有機物を分解するときのエネルギーを使って発電します。バイオ発電と言うと、クリーンなエネルギーとして期待が大きい一方、微量な電力しか発電できず、他のエネルギーに比べて効率の面で劣るため、なかなか実用化できていませんでした。

しかし、「いつでも、どこでも、誰でも、何でも」ネットワークにつながる社会、モノのインターネット(Internet of things)が盛んに言われるようになり、また低炭素社会へと世の中が大きく変化していく中で、周りの環境から微小なエネルギーを収穫して電力に変換するエネルギーハーべスティング技術の重要性が認識されるようになり、研究が活発になってきました。バイオ燃料電池においても2000年頃くらいから、さまざまな大学や研究機関が高出力化に向けて盛り上がっていました。

バイオ燃料電池は、微生物を使うものと生体内の酵素を使うものに大きく分けられるのですが、特に私が注力してきたのは生体反応を利用するものです。生体触媒となる酵素を使うことで、体内のいろいろなものを燃料として発電することができます。グルコースオキシダーゼを使うと砂糖を分解して発電できますし、乳酸オキシダーゼを使うと、乳酸を分解して発電できます。

——体の中にあるものを活用した、つまり生体親和性の高い発電技術なのですね。

生体反応を用いたバイオ燃料電池には、大きな2つの流れがあり、一つはペースメーカーのような体内埋込み型で血中グルコースから発電するもの、もう一つは外付け型、いわゆるウェアラブルデバイス用電池です。

——先生はウェアラブルデバイス用バイオ燃料電池について研究してこられているのでしたよね。

私は2006年頃からバイオ燃料電池の研究を始めています。ウェアラブルデバイスがはやり始めたのは2011年くらいです。身体に装着してリアルタイムで状態を把握できる軽くて薄い機器の出現は画期的で、腕に着けてランニングしたりと一般にも普及したのは、ぐっとハードの省電力化が進んだからですね。一方でバイオ燃料電池の研究も進展し、出力が上がってきていたので、両者が合わさって実用化のめどがたってきました。

——今回、どうして汗と和紙なのですか?

2013年頃から印刷を使ったさまざまなバイオセンサーデバイスの研究をしてきました。

介護やスポーツ分野向けのものを開発したいと考えていて、あるときおむつセンサーの研究を見かけました。尿糖値で血糖値を測定し、オムツの変え時も分かる。使い捨て前提なので、センサーを動かす電力は、貴金属を使わないバイオ燃料電池が適しています。紙なら安いし、紙と炭素と酵素という組み合わせなら廃棄も簡単なので、おむつ以外にも用途があるぞと。紙の中でも通気性と吸水性に優れた和紙がよいだろうと、たくさんの和紙を集めて紙の電池を作り始めました。今回の汗の発電装置とは別に、理化学研究所や筑波大、計測機器メーカーさんと共同で、「尿で発電するおむつ電池」のシステムも作っています。

——紙の電池の仕組みを教えてください。

構造は、基盤となる和紙の空気に触れる方に撥水コーティングを施し、スクリーン印刷で電極を接続するための導電性のカーボン、その上に多孔性炭素電極を印刷します。さらに隣り合う炭素電極上に酸素を還元する酵素・ビリルビンオキシダーゼ、乳酸を酸化する酵素・乳酸オキシダーゼをそれぞれ固定化して正極・負極を作ります。その上に身体に触れる方の基盤として和紙を重ねています。和紙が汗に濡れて内部に浸透していくことで、乳酸を取り込むことができます。

画像提供:四反田先生

——どのくらいの出力なのですか。

アレイ(配列)では1組の正極・負極を直列方向×並列方向で1組とし、最大6組並べる構造としました。1×1、6×1、4×4、6×6の電極アレイで実験したところ、それぞれ0.113 mW、0.511 mW、2.55 mW、4.30 mWの出力が得られました。これまで報告されている薄膜型バイオ燃料電池よりも高い出力で、またアレイ数に比例するように出力が増すことを確認しました。6×6にすると1×1のときの38倍にもなります。また、得られる出力を元に、乳酸濃度の測定も可能です。

——具体的にはどんなものが動く電力量ですか?

6×6の電極アレイでは、歩数などを測る活動量計を1.5時間作動させられました。また回路を設計し、自己発電型ウェアラブル乳酸センシング・デバイスを作成してみました。Bluetoothでスマートフォンと通信し、汗で乳酸濃度をモニタリングできることも確認しています。乳酸濃度が高くなると得られる出力が線形に増加するんです。

——発電にはどれくらい汗をかかないといけないのですか?

発電をするには1分あたり数十マイクロリットル、しっとり濡れるほどの発汗が必要なので、暑熱下のスポーツ時の利用を想定しています。

実は最近、汗中乳酸濃度と血中乳酸濃度には強い相関関係があることがわかり、運動強度を管理するために汗中乳酸のリアルタイム検出に関心が高まっています。乳酸値が上がっているのでトレーニングのしすぎだよ、熱中症になりかけているよとか運動中にわかるデバイスを開発したいですね。ナトリウムイオンをセンシングして休息のタイミングをお知らせするとか、トレーニングにおける新しいモニタリングシステムを開発して、安く大量に作って普及させるのが目標です。

——運動中の汗で発電もトレーニング管理もできるなんてよいですね!

画像提供:四反田先生

長年蓄積したノウハウが高出力の鍵

——開発でご苦労された部分は?

出力をいかに上げるかです。バイオ燃料電池の研究を始めた2006年頃は数百 nWとか、1 μnWしかなく、そこから数 mWまで上げることさえ大変でした。

——どうやって出力アップを果たしたのでしょう。

基板となる紙の部分がカギですね。今回使っている和紙は、印刷性が良いさらりとした手触りのものですが、ほどよく酸素が通るように撥水してあることで、高出力を出すことができます。でも実はインクの組成や印刷といった、アカデミックとは別のノウハウ的も部分も重要なんです。

——ぜひ教えてください。

ここは筑波大学の辻村先生と一緒に進めた部分ですが、カーボンを酵素の孔に入れるためにいろいろ苦心を重ねました。酵素のサイズに合わせて孔を加工した炭素、トランスカーボンというんですが、これをいろいろと試していったんです。最初は自前でいろんなカーボンを作りましたが、プロセスが大変すぎて印刷に必要な量を得るのに一苦労でした。現在は市販のカーボンを使っていますが、ナノメートル単位の話なので、孔のサイズをどうするか、どういうプロセスで酵素を固定化すればカーボンが孔の中に入っていくのかなど、細かく調整していきました。

——印刷のノウハウも大事ということですが。

年賀状印刷によく使われるプリント装置、みなさんもご存知だと思います。それと同じ原理の、スクリーン印刷の手法を使っています。印刷したい部分に孔が空いているメッシュの版に、スキージ(版にインキを押し付けるためのゴムベラ)でカーボンインクを押し付けて印刷します。研究室には半自動のスクリーン印刷機がありますが、2年くらいかけて押し付ける強さやスピード等のパラメータを調整し、適正な印刷条件を割り出しました。よく外部の人に「やってみたけどうまくいかなかったよ」と言われるんですが、そんなに簡単じゃありません。今でも学生たちが毎日のように印刷してくれていますが、毎年取り組んできてくれた学生と実験補助のスタッフの努力の賜物です。こうしてデバイスが動くほどのものができて、使えそうだと思ったのが2016年頃のことです。

——学生さんが何代にも渡って携わり、つなげてくれたんですね。

そうなんです。最初はあまりにも電力が微量で何も動かないので、学生も何なんだと思ったことでしょう(笑)。今は論文発表時のデータよりもさらに出力が上がっています。

画像提供:四反田先生

可能性は無限!様々なシーンでの実用化を目指す

——紙の電池のメリットを一言で表すと。

生体親和性の高い材料を使い、フレキシブルかつ、薄くて軽い電池を形成できるところです。酵素は人間の体の中にあるものなので、体温くらいで一番出力が高くなり、電極が和紙で覆われているので非侵襲的、人が身につけたときにも安全です。しかも金属は使わず、紙に印刷しているだけだから、廃棄性も良い。

——この紙の電池が進化していくと、ほかにどのような可能性がありますか?

今、バイオセンサーの世界で市場性が高いのが、グルコースセンサーです。世界中に何億人もいる糖尿病患者は、血中グルコースの測定が必要だからです。乳酸も将来性があると考えています。温暖化で日本では熱中症の危険性が年々高まっていますし、汗をかくのはスポーツのときだけではないですよね。

ほかにも、家畜の管理にも使えそうだというお話をいただいたりもします。農業の分野をはじめ、いろんな応用先を考えていきたいですね。また、緊急時にも使えるかもしれません。

——というと?

アウトドアですね。電気の届かないところで遭難し、救助が呼べない事故がありますが、自分の汗や唾液で発電し通信できればそうしたことが減らせます。例えば、紙の入場券にRFCタグ的なものを仕込み、超省電力の無線通信技術と組み合わせて、汗や唾液で濡らしてエマージェンシーを送れるとか、そういうシステムができたらいいですね。いろんな技術との組み合わせでアイデアは広がると思います。

——確かに、自家発電でき、薄くて小さい、出力も高いとなると、いろんな発想が生まれそうです。

高3で理系に転向し、1日15時間の猛勉強!

——ここからは研究者を目指す若い読者に向けて、先生の研究キャリアについてお聞かせください。四反田先生はどのようなきっかけで研究の道に入られたのでしょうか。

私は高校3年のときに理系に転向したんですが、数学や物理は苦手でした。理転して最初の化学のテストなんて、200満点中4点だったんですよ(苦笑)。教師にも心配されましたが、そこから猛勉強し、1日15、16時間机に向かう日もありました。予備校には行けず勉強方法も自己流でしたが、無事大学に合格できました。大学院に進み、ドクターに行くと決めたときは、裕福な家でもなかったので、ここまで来たらしっかりやろうという気持ちでしたね。縁あって母校の研究室に迎えられて、ありがたいです。

——理系を目指している受験生には勇気が出るエピソードだと思います! 1日15時間勉強は大変そうですが…。

中学や高校時代は「授業で習う数学って何に役立つんだろう?」と思っていました。でも大学は学ぶことが実学的で、数学や物理もすんなり頭に入ってきました。そうやって勉強しているうちにだんだん好きになり、10年、15年と経つうちに苦手意識もなくなりました。今、教科書の数学が苦手だけど、理系に興味があるという人はあきらめないで欲しいです。

——研究成果が注目されていますが、発表するまでは、地道な作業の繰り返しだったのでしょうか。

研究内容を深堀りするとすごくマニアックで、今回の研究に関しても2006年頃から毎年学生たちと「うまくいかないな」と言いながらやってきたものです。でもこうしたことをコツコツと続けられるが大学の良さですよね。理工学部はすぐに役立たなくてもマニアックなことを追求できる理学部と、少し実用に寄った工学部が融合しているところに面白さがあります。

——実用化されたら達成感も大きそうです。

大学としては基礎研究を行い、チャンピオンデータが出せればいいのかもしれません。でも、自分のやっていることが世の中に役立てられるチャンスがあるなら、ぜひそれを叶えたいです。これを読んでくださっている方が人体発電のようなものに興味を持ち、新しい応用先や用途を切り開いてみたいなと思ったら、ぜひこの分野にチャレンジして欲しいし、企業の方も気軽に問い合わせていただければと思います。

——次世代電池の将来性や活用方法、先生ご自身の理系に進んだお話など、興味深く参考になるお話をたくさん聞けました。ありがとうございました!

東京理科大学 理工学部 先端化学科 准教授
四反田 功(したんだ いさお)

東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻。博士(工学)。東京理科大では物理化学や分析化学に取り組み、大学院でバイオセンサーに出会ってからは、バイオ燃料電池もテーマに。バイオ燃料電池の研究が盛んなカリフォルニア大学サンディエゴ校でも研究に従事した。

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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