イラスト:桜井葉子

昼はエンジニア。夜は悪キャラを倒す科学戦士。その名も「ミギネジ」!
組織を恨む敵と、組織を守る敵! 街の平和を守るため、今日も科学戦士は立ち上がる! 仕事との両立は大変だけど!

「ぶつぶつ」言いながら暴れる悪キャラ、登場

私は、ミギネジ。
昼はエンジニアとして働き、夜は誰に言われるでもなく科学戦士をやっている。

「もう働きたくない。ぶつぶつ……。頑張って働いてきたのに社長にもう使えないって言われてしまった、ぶつぶつ……。
こんな世の中なんてもうどうでもいい!壊してやる!
えーい!」

ガッシャーン!

ミギネジがエンジニアの仕事を終えて帰宅し始めると、生配信の動画ニュースがスマホに流れてきた。

「何やらぶつぶつ言いながら建物を破壊し始める、ぶつぶつ星人が現れました!
見た目もぶつぶつしていて、世の中を変えたいとぶつぶつ呟いています!」

こんなときにすぐさま現場に向かってしまう癖を持つのが……、そう、博夫である。

「今日も戦いたくて、ウズウズするぜ!」

博夫は、いつもどおり意気込んで参上。

生配信で流れてくる映像では、逃げ回り、恐怖に怯えている街中の人が、博夫の出現に歓喜している。

しかし……。

ぶつぶつ星人の自らを覆う大量の小さな“つぶ”を飛ばすという原始的な攻撃「つぶつぶアタック」によって、
博夫はあっという間にやられてしまった。

これも、いつもどおりである。

謎の女性SP「光波ナミ」

「『ぶつぶつ』とか、『つぶ』とか、『つぶつぶ』とか、さっきからうるさいんだよー!」

博夫をよそに、ミギネジは生配信を見ながら叫んでしまった。

「それで……、ぶつぶつ言いながら私への腹いせにうちのビルに向かっているのかしら?」

自社ビルの横にあるプールサイドで寝そべりながら仕事する社長は尋ねた。

「ええ、そのようです。ですが……、私がしっかりと社長をお守りしますのでご安心を」

社長の護衛をしている彼女の名前は、光波ナミ。

「なにか御用ですか?」

予想どおり社長の自社ビル前に現れたぶつぶつ星人に、ナミは尋ねた。
ナミは動じる様子はいっさいなく、淡々としている。

「一部の人が搾取するこんな世の中なんてなくなってしまえばいいのだ!
私は今日このビルを破壊しにきた。ぶつぶつ……」

ぶつぶつ星人は、不満が止まらない……。

「光波だか音波だか知らないが、君は私のつぶつぶ攻撃に耐えられるかな?
いけ~、『つぶつぶアタック』!」

博夫のときよりも大量の、小さなつぶつぶがナミを襲う。

しかし、ナミは攻撃に惑わされることなく高くジャンプし、自ら光を放った。

「いけ! 紫外線!」

ピカーン!あたりは紫色の光で照らされた。

そう、光波ナミはその名のとおり、光波(紫外線や可視光線、赤外線など)を自ら出すことができるのだ。

「ふふふ、光ってしまったわね」

よく見ると、ぶつぶつ星人が紫外線と反応して、発光している!

「正体がバレる! 逃げろー!」

ぶつぶつ星人は逃げ出した。

ぶつぶつ星人の正体、わかった!

しかし、残念なことに、その一部始終をミギネジに見られていた。

「はいはい、すとーっぷ」

ミギネジは、逃げようとするぶつぶつ星人に声をかけた。

「なんだね、君は?」

「私はミギネジよ。さっき紫外線で発光してたから……、あなたの正体は言われなくてもわかるわ。

あなたの正体はその黄色い色とフォルムから考えて……、ビタミンB2ね!
暗くなり始める夕方に現れたのが間違いだったわね! 時間を選びなさいよ!」

そう、ビタミンB2は、紫外線に当たると発光するのだ。

そして、まわりがちょっと暗いほうがその反応は見えやすい。

ギクッ!

ぶつぶつ星人は、正体がバレた不安からつぶつぶをミギネジに投げつけようとした。
投げつけているのは、小さなビタミンB2の錠剤ということになる。

「さっさと溶けなさい!この水溶性ビタミン!いけ~、水!」

ジョ~。

ミギネジは、飲みかけの水をぶつぶつ星人にかけた。

そう、ビタミンB2は水にはよく溶け出すのだ。

「わぁ~!」

ぶつぶつ星人は時間をかけながらも徐々に水に溶け出し、あたりは黄色い海になって消えた。

博夫、大ピンチ! 思わぬ戦いがスタート

「ミギネジさん、水だけで倒すなんて安あがりですね!」

駆けつけた博夫がミギネジを褒めちぎっている。そんなとき、黒い影が迫ってきた。

「あなたたちも仲間かしら? 私の名前は光波ナミよ」

「なんだよ、その『右に右折します』みたいな名前は!」

博夫の突っ込みは冴えているように思えるが、状況はそれどころではないようだ。

「博夫、それは……!」

ミギネジは、あることに気づいてしまった。

そう、博夫は冒頭で戦った疲れを癒そうとエナジードリンクを飲んでいたのだ。

エナジードリンクにもビタミンB2が含まれているので、
光波ナミはミギネジと博夫をぶつぶつ星人仲間だと思っているのだ!

「こうなったら逃がすわけにはいきませんね……。あなたたちにはもっと強い光を与えて攻撃しましょう!」

そう言い放ったナミは、先ほどよりも強く光を放った。

「ヤバイ! 走って!」

ミギネジは博夫を連れて、社長の自社ビルめがけて一目散に走った。

「このまま紫外線に当たり続けてお肌がボロボロになるのでしょうか、ミギネジさん……。
ひえー!我ながらスキンケア頑張っていたのに!やっぱり日焼け止めとかは毎日塗っておいたほうがよかったのでしょうかー?」

博夫はお肌の心配をし、そして絶望していた。

社長の自社ビルに到着したミギネジは、社長お気に入りの洗面台の超巨大鏡をはぎ取り、
超巨大鏡とともにプールに飛び込んだ!

「博夫、鏡の後ろへ隠れて!」

博夫とミギネジは、なんだかんだで水中でも息が通じ合うようになってきたようである。

「わー! ビルに虹ができている~!」

社長は呑気にプールサイドから虹を見上げて感激している。

そう、ミギネジはナミの光を利用し、鏡と水を使って社長の目の前で美しい虹をつくったのだ。

ナミの光は、すべての色を含む白色光だったため、水と鏡を使い反射・屈折することでそれぞれの色に分け跳ね返されてしまったのだ!

「光波が反射・屈折されるところを社長に見られて、どんな気分かしら。白色光までしか出せないなんてまだまだね、光波ナミさん」

「うー! こんな姿を社長に見せたら、がっかりされてお給料が減るじゃない!なんならミギネジさんに護衛を……、って部署異動だけは避けたい!
次はもっと波長の短い危険な光波を出せるように訓練してやる! 見ていなさい、ミギネジ!」

そう、ミギネジは「減給」と「部署異動」というナミの弱みを見事に突いたのだ。

ナミは訓練すると誓い、さっさと退散した。

「高そうな巨大鏡はぎ取って大丈夫でしたかね……、ミギネジさん」

博夫は帰り際にミギネジに尋ねた。

「ぶつぶつ星人の気持ちもわかる気がするから、これでいいのよ」

「ミギネジさん、仕事で何かあったんですか…?」

「さあね……」

こうして、平和は守られた。

【今回の必殺技1】

必殺技名:「紫外線」
分野:物理
費用:★★☆、手間度:★★☆、危険度:★★☆

【ミギネジの予備実験室】

《準備するもの》
◎ビタミンB2の錠剤、エナジードリンク
◎紫外線(ブラックライト)
◎水

《実験手順》

(1)ビタミンB2の錠剤やビタミンB2を含むエナジードリンクに紫外線をあてると、
ビタミンB2の構造がブラックライトの紫外線を吸収し、エネルギーを可視光として排出するため光ります。


※写真1(左)、2(右):ビタミンB2の錠剤やエナジードリンクに紫外線をあてると光る

(2)ビタミンB2は水溶性のため、水に溶け出します。


※写真3(左)、4(右):水に溶けるビタミンB2

▼実験の様子は動画でもご覧いただけます。(ミキラボ・キッズ)

https://youtu.be/fY31mgo2gwg

【今回の必殺技2】

必殺技名:「水と鏡で虹」
分野:物理
費用:★☆☆、手間度:★★☆、危険度:★☆☆

【ミギネジの予備実験室】

《準備するもの》
◎鏡が入る大きさの容器
◎水
◎鏡
◎懐中電灯

《実験手順》

(1)容器に水と鏡を入れます。


※写真5:容器に水と鏡を入れる

(2)水の中にある鏡に向かって懐中電灯を照らして反射した光を壁にうつすと、壁に虹が出現します。


※写真6:水の中にある鏡に向かって懐中電灯を照らすと、虹が出現

▼注意事項

・小学生など低年齢の子どもが実験するときは、必ず保護者の指導のもとで実施してください。

・紫外線や懐中電灯の光が直接目に入らないように気を付けて実験してください。


五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。1992年東京都生まれ。
東京大学大学院修士課程及び東京大学大学院科学技術インタープリター養成プログラム修了。
幼いころに虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを獲得後、「老若男女問わず科学の楽しさを伝えるミス理系女子」として、子どもから大人まで幅広い層に向けた実験教室やサイエンスショーを全国各地で主催、講師を務める。
特技のヒップホップダンスで魅せる「踊るサイエンスショー」は好評を博している。


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