研究は、大学や企業が単独で自前のリソースを使って行うもの。

そんな研究の常識を覆す、研究機器・装置をはじめとした研究リソースのシェアリングサービスを生み出した企業があります。それが、仙台市に本社を構えるCo-LABO MAKER(コラボメーカー)です。

コラボメーカーの創業者である古谷優貴さんは、材料化学を研究していた修士時代に8本もの論文を発表し、就職後は総合化学メーカーで半導体の研究をしていたバリバリの研究者。そんな古谷さんが、なぜ起業しようと考えたのか? 研究者が本当にやりたい研究をするためには、どうすればいいのか? 古谷さんの生き方や考え方は、研究者の一つのロールモデルとして、勇気づけられるエッセンスに溢れていました!

自前主義からの脱却。研究のスピードも成果も、桁違いに変わる。

──最初に、コラボメーカーのサービスについて教えていただけますか?

コラボメーカーは、公的研究機関や大学、民間企業が実験機器や装置を提供し、使いたい人とをつなぐプラットフォームです。時間や日単位で、利用できる研究機器や装置を網羅的にリサーチすることができます。マイナーで個人ではなかなか見つけられない機器であっても、コラボメーカーなら見つかる、そんなことを目指しています。私の専門が材料化学ということもあって、最初は材料系の機器・装置の登録が多かったのですが、最近はライフサイエンス系の機器も増えてきていますね。すでに東北や関東を中心に、全国で1300以上の実験機器が登録されています。

機器を借りるのみの利用だけでなく、提供者に実験の補助を依頼したり、実験をまるごと依頼したりすることも可能です。もし、実施したい実験が漠然としていてどの機器が良いのか明確でない場合は、専門のコンシェルジュが丁寧に対応します。技術的な内容から、マッチング相手の選定や取引に関してまで、何でも相談に乗ります。

 

──コラボメーカーのアイデアは、どのように思いついたのでしょうか?

私たちは「日本中をあなたの研究室に」というコンセプトのもと、研究開発を民主化し、だれもがやりたい実験ができる世の中にしたいと考えています。

このように考えた背景には、私自身が研究者として「やりたい実験ができない!」と感じていたことがあります。実験機器が高価すぎて買えない。成功打率が低い研究には、予算が割り当てられない。その割に、余っている機器は多い。研究室には、さまざまな課題が混在していたのです。また、大学では2つの研究室を経験したのですが、一つは優れた技術を有しているものの、アピールできずうまく資金が獲得できない研究室。もう一方は、資金が潤沢で、どんどん研究を行い、どんどん成果を出すような研究室でした。研究室によってこんなに格差があるんだと実感しましたね。つまり、情報・人・お金は、集まる研究室には集まり、集まらない研究室には集まらないという「情報の非対称性」が生じていて、研究室選びが一生を左右する現実に問題を感じたのです。

そこで考えたのが、研究機器や装置などの研究リソースのシェアリングサービスです。昨今、空いている部屋や家を宿泊施設として貸し出すAirbnbなどの民泊サービスが定着しつつありますが、コラボメーカーは、そんなAirbnbの研究バージョンといえば、分かりやすいでしょうか。

 

──コラボメーカーのサービスは、まだ始まったばかりだと思いますが、今後どのような効果があると考えていますか?

これまで研究開発の現場では、既に保有しているものでなんとかしようとするか、コネのある研究室に頼むかのどちらかしかありませんでした。私がいた材料分野の場合は、研究の対象物を自前で作成し、加工し、評価するという流れが一般的でした。いわゆる自前主義ですね。ですが、そもそも対象物の作成と加工は専門分野が違います。だから、それらすべてを自前で行うには、時間もお金もかかり過ぎるのです。共同研究にも多大な時間がかかります。コラボメーカーのシェアリングサービスが広がれば、実験の外部利用が当たり前となります。研究開発の速度が変わる。桁違いの成果が出せる。これまで以上に大きなイノベーションが創出されることでしょう。異分野間のコラボレーションも大いに期待できます。

私は、修士課程で論文を8本書いたのですが、無理して書いたという自覚はありません。なぜなら、研究室内に複数の専門分野の研究者がいた上、隣の研究室や外部の組織に、研究過程の一部を迅速に手伝ってもらえる体制が整っていたからです。自前主義にこだわらず、外部のリソースが速やかに活用できるようになれば、実験を、思考のままに施行できるようになりますよ。

起業のきっかけは、ゲーム感覚で始めたアイデアコンテスト。

──ここからは、古谷さんのキャリアについて伺っていきたいと思います。そもそも、なぜ、理系に進まれたのですか?

理系、そして研究者というキャリアは、わりと小さい頃から意識していたと思います。父が農業試験場の研究員で、イチゴやトマトの研究をしていたんです。子どもながらに楽しそうに働く父の姿を見ていましたし、理系分野も好きでしたから、自然と将来は研究者になるのかなと。

材料系の研究をやりたいと考えたのは、東北大学を見学したときに、形状記憶ゲルなどを見て面白そうだなと思ったからです。当時、東北大は金属材料の研究開発で世界1位だったので、その点も惹かれましたね。ただ、金属材料にはときめかなくて(笑)生物や化学の方が好きだったこともあり、結晶や機能性材料、たんぱく質で作る人工筋肉なんかを研究しました。

 

──修士課程修了後は、博士過程へ進まず企業に就職されましたよね?

そうです。大学に残るのか、企業に就職するのか、そこは非常に迷いました。いずれはドクターに進みたいと思ってはいましたが、修士1年生のときに学生結婚したこともあって、いざとなったら社会人研究者で戻ってこようと、まずは総合化学メーカーに就職することにしました。

 

──総合化学メーカーで数年研究された後、起業されたわけですが、なぜ起業しようと考えたのですか?

正直に言うと、最初から起業を目指していたわけではありません。もともとのきっかけを辿れば、アイデアコンテストへの参加でしょうね。

メーカーの研究者として働いていたとき、どんどん視野が狭くなる自分に危機感を覚えました。幼い子どももいますから、家に帰って子どもとお風呂に入って、寝かしつけて、そのまま寝ちゃうなんてことも。勉強する時間、一人で思考する時間が減っていました。そこで、隙間時間に面白い刺激が得られるものはないかと探したところ、アイデアコンテストを見つけて、ゲーム感覚で参加してみることにしました。

 

──企業研究者の仕事と家庭での育児に忙殺される毎日に、風穴を空ける試みだったのですね。どんなコンテストに参加されたのですか?

最初に応募したのは、博報堂が主催するイノベーションクラウドというコンテストです。確か「5年後の家庭のリビング空間で使われる面白いアイデアを求む」といったお題に対して、ソリューションを提案したと思います。考えたり調べたりするのが面白く、試しにやったつもりがいきなり佳作をいただいて。頑張れば入賞も夢じゃないと、本腰を入れて取り組んだら、賞金を稼げるようになりました(笑)。

また、こうしたコンテストを通して仲間もできました。仲間のおかげで、参加するコンテストのレベルが上がっていきました。そこで出会ったのが、ソフトバンクメディアホールディングスさんが主催する「MVPアワード」です。「テクノロジーで社会の課題を解決する」というテーマで、自分自身が課題に感じていて、自分が本気でやりたいと思えるものを考えた末、コラボメーカーのアイデアが誕生しました

 

──実際の事業化は、どのような過程で行われたのですか?

事業としての可能性を探るため、コラボメーカーの事業プランについて、大学の教授や生徒にヒアリングしたら、好感触を得られたので、最優秀賞をとれたら本気で事業化を考えようと思っていました。そうしたら本当に最優秀賞に選ばれまして。

そこで、恩師である東北大学の吉川彰教授の東北大発ベンチャーで働かせてもらいながら、2017年4月に起業しました。さらに、念願だった博士課程にも進み、これでもかというくらいの幸運が重なって今に至ります。アイデア投稿を始めてから起業まで、わずか2年の出来事です。自分でも驚いています。

起業も研究も。諦めないでいると幸運が。

──幸運が重なり合って起業に至ったとのお話でしたが、そうした“幸運”と出会うためには、何が必要だったと思いますか?

諦めずにやりたいことを模索し続けたこと、構えず自然体でい続けたことでしょうか。そのおかげで、いい仲間と出会うことができ、理屈では説明しきれないような面白い幸運と巡り会えた気がします。

最初から「こういう人、こういう組織と出会いたい!」とターゲットを決めていたら、自ら可能性を狭めることになって、こんな幸運は起こらなかったと思います。研究もまさにそうですよね。本当に新しいこと、面白いことは、狙ってできることではないので。セレンディピティを信じて、可能性を広げて、手段を諦めずに探してみる。さまざまなことに繰り返し挑むことが重要だと思います。あとは、遊び心も大切にしています。楽しんでやることで、より幸運が起こりやすくなると思います。

 

研究者は事業構築にも適性が。
研究者が本当にやりたい研究ができる世の中に。

──「本当にやりたい研究を続けていくことは、なかなか難しい」と感じている研究者も少なくないですが、どうすれば少しでも自分がやりたい研究ができるようになるのでしょうか。

研究者の多くは、大学や企業に所属し、与えられたテーマを研究します。「就職」というより、組織に就く「就社」というイメージの方が強くなっています。自分のやりたい研究にこだわって入社したのに、入社時の研究が続けられている研究者は多くありません。大学で学んだ知識やスキル、ノウハウが活かせないなんて話もよく聞きます。

しかし、このままではいけないと思っています。研究者は文字どおり「就職」すべきだと思うのです。たとえば、IT業界では、エンジニアの自由度が高まっていて、エンジニアが自身のスキルを活かして、新規事業や新規サービスを創出しています。研究者の自由度も、このくらいまで高まればいいなと思っているんです。研究者自身がやりたい研究を行って、事業化していく。そんな世の中にしたいですね。コラボメーカーのサービスはそのためのプラットフォームです。与えられた研究リソースに捉われることなく、自由に研究してもらい、よりスピーディに、より大きな成果を出してもらいたい。一つ成果が生まれれば、新たなイノベーションは起こりやすくなります。

また、大学発ベンチャーは、やりたい研究がしやすい環境だと思います。事業自体が研究ですから、本気で研究開発したい人にとっては、大企業よりもやりがいが得やすいかもしれません。

 

──ベンチャーは、不安定だと敬遠する研究者も多いですよね。ほかの選択肢もあるのでしょうか。

質問に逆行するかもしれませんが、私のように自ら事業を起こす道もあります。そもそも研究は、未知を既知にするプロセスであり、研究者は、0から1を生み出すクリエイティビティに溢れた人材です。何もテーマが与えられていないところで課題を見つけ、仮説を立て、手段を考えて実験し、検証する。もちろん実験のためのリソースの確保や結果のアウトプットも自ら行います。このプロセスと未知への探求、具現化のための行動は、研究も、事業構築も同じ。研究者は、新規事業創造ができる。そういう意味で、研究者は起業家に向いていると思います。

 

──起業はベンチャーへの就職よりもさらにハイリスクで、誰にでもできるわけではないですよね?

もちろん、実際に起業するとなると、当然リスクは伴います。しかし、研究と事業構築、その両方の経験とスキルを持っていることは、大きな武器になります。なので私自身は、挑戦するデメリットはあまり見当たりませんでした。組織に所属せず、自分自身の力で生きていきたいと考える研究者には、起業という選択もあると知ってほしい。研究室に閉じこもるより、ニーズベースの考え方や全体視点も身につくし、もし万が一のことがあっても、その経験も含めて、世の中に貢献できる道が必ずあると信じています。

 

──最後に、コラボメーカーの展望について教えてください。

今後は、機器や装置だけでなく、人や技術も研究リソースとしてシェアできるようにサービスを拡大していきたいと考えています。遊休施設の活用という事が注目されがちですが、目指すところは、機材だけでなく研究者同士のコラボレーションが生まれること。ゆくゆくは研究リソースが組織を超えて循環するエコシステムを構築したいですね。そうなれば企業同士も、競争ではなく、共生するようになるでしょう。そして、研究者一人ひとりが、本当にやりたい研究に没頭できるよう、世界をひとつの研究室にしたい。乗り越えるべき壁はたくさんありますが、実現に向けて、諦めずに挑戦し続けたいと思います。

 

 

株式会社Co-LABO MAKER(コラボメーカー)
2017年創業。研究設備・ラボのシェアリングプラットフォーム「Co-LABO MAKER」を運営。
「やりたい実験がある人」と「保有している研究設備を活かして機会や収益を獲得したい人」をつなげるマッチングサービスです。
2019年3月現在公開されているサービスは、研究設備・ラボのシェアリングサービス。バイオ・化学系のラボを中心に展開されています。今後、さらなるラインナップ強化とリーンに研究開発を進めていくためのサービス強化が進められる予定。
https://co-labo-maker.com/

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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