こんにちは! Rikejo事務局です。
3月17日に開かれる「ミライリケジョ ものづくりカフェ 2019」では、ロボットを使ったものづくりワークショップを開催します。
ワークショップの後半では、「水」を生かした街のアイデアを考えながら、ロボットが疾走するコースを作成!

そこで、ここでは番外編として、イベントに参加する人も、今回は参加できなかった人も、一緒に私たちが「水」を使える理由を考えてみたいと思います。

※このスペシャル講座で扱う内容は、ワークショップの内容を「深読み」するアドバンストコースです。記事の内容とワークショップ本編は、直接的には関係ありません。

川はどうして流れてくるの?

多くのみなさんは、街中にある自宅に住んでいると思います。
人によっては、20階、30階まであるような高層マンションに住んでいるかも?

そんな街中のいろいろな場所に水を届けているのが、「水道」
栓をひねれば、蛇口から水が出てくるのが、日本では当たり前の光景ですよね。

でも、世界では水をめぐって、様々な問題が起きています。
国連は、2018年から2028年を「水の国際行動の10年」と位置付け、水に対する意識を高めようと呼びかけています。

今は水資源が豊かな日本に住んでいる私たちですが、世界的な気候変動に見舞われている現在、いつまで豊かな水を使っていけるのかは、誰にもわかりません。
水を大切に使いながら、水を生かして暮らしていくことを考えていく必要があるのです。

そこで、この講座では、Rikejoらしく、そもそも「水」がどうやって、私たちの手元に届くのかを科学的に考えてみたいと思います。

みなさんは、「川の水が、どうして上流から流れてくるのか」、考えてみたことがありますか?

バケツに水を張ったとき、バケツに穴があいていると、特別に力を加えていなくても、水が勢いよく漏れてきます。

上流、つまり標高の高い場所にあるダムや湖などの水源地から、標高の低い場所に向かって水が流れ出て、川ができるのも、「穴のあいたバケツ」と原理的には同じです。
「高い場所にある水は、低い場所に向かって流れ出るエネルギーを持っている」のです。
それは、いったいなぜなのでしょうか?

「そこにある」だけでエネルギーを持つ!?

たとえば、バネで結びついた、2つの物体があると考えてみましょう。
下の写真の場合は、右手と左手をバネで引っ張り合う「エキスパンダー」と呼ばれるエクササイズ器具を持っていますよね。

ここで、左手を止めたまま、右手を思い切り伸ばして、バネを引っ張ると、どうなるでしょう。
右手を広げておくためには、バネが縮もうとする力に対抗する「エネルギー」をかけておかなければなりません。

物理の授業で、バネの性質を習った人もいるかもしれません。バネにかかる力F(単位はニュートン、N)は、伸びた長さx(単位はメートル、m)と、バネ定数kを使って、

F=k×x

と表されます。これを「フックの法則」と言います。
高校生のみなさんは、もっと本格的に、エネルギーについて勉強しているでしょう。

古典力学では、「エネルギー」とは、「ある経路で物体がした仕事の総和」のことです。今の例だと、バネをグーンと伸ばして、ある長さにするのに必要だった仕事の量、ということになります。
ある物体に対して、それに力Fをかけて、距離Δxだけ動かしたとすると、その「仕事」は、

W=F×Δx

と計算されます。かけた力と、動いた距離の掛け算ですね。

【ここはアドバンスト! 読み飛ばしても大丈夫です!】
でも、バネを伸ばすときだって、かけている力は一定とは限りません。最初にグッと力を入れて、あとはスーッと引っ張る、ということも考えられます。
つまり、力が「時間変化」することも考えに入れておく必要があるでしょう。

そこで、力の変化がほとんど起きていないと考えられるくらい、ごく短い時間Δt(単位は秒、s)の間に起きたことを考えてみましょう。
その一瞬の間に動いた距離Δxについて考えてみると、

Δx/Δt=limx0Δx/Δt=dx/dt

と考えてよいので、

Δx=dx/dt×Δt

になります。
Fは時間tによって変化するので、tを変数とする関数F(t)だと考えられます。すると、時刻tにした瞬間的な仕事の量は、

W=F(t)×Δx=F(t)×dx/dt×Δt

これを、時刻t0に動き出した始点から、時刻t1に動きを止めた終点まで足し合わせることは、次のような積分をすることと同じです。

W=t0t1F(t)dxdtdt

tで微分して、tで積分していますね(式の形の上では、dtで割ってdtを掛けたように見えます。いわゆる変数変換です)。実はこの仕事の和を考えると、時刻は関係なくて、力を位置xの関数とみて積分したのと同じことになります。

W=Fdx

つまり、「力Fを位置xについて積分したものが、古典力学におけるエネルギー」ということになります。

ここで、バネを長さx伸ばすのに必要だったエネルギーは、フックの法則で与えられる力Fの式をxについて積分すれば、

E=kxdx=12kx2

とわかります。

このことを言い換えると、「バネで結びつけられた物体は、基準点からxの位置にあるだけで、xの2乗に比例するエネルギーをもつ」ということになります。

今のエキスパンダーの例では、バネが左手の位置を基準点として、右手を伸ばした「位置」によって生じているエネルギーに、エクササイズをする人が抵抗して筋肉を使っていることになりますね。

バネで結びつけられた物体に生じたエネルギーのように、「位置」によって物体が持つエネルギーのことを「位置エネルギー」(potential energy)と言います。
この位置エネルギーこそ、「川が流れる」深い理由のひとつなのです。

重力が生み出す「位置エネルギー」

みなさんは、科学者ニュートン(1643〜1727年)が、「万有引力の法則」を発見したときの逸話を聞いたことがあるかもしれません。

「りんごは、なぜ地面に落ちるのか?」
ニュートンが、ほんとうにそのことをきっかけにして重力を発見したのかは、実ははっきりとはわかっていません。
けれども、この例が示すように、質量を持つふたつの物体の間には、「万有引力」と呼ばれる力が働きます。
地球上にいる私たちは、地球という巨大な物体に引き寄せられて、地上に立っていられます。りんごもまた、万有引力に引き寄せられるために、地表に落ちるのです。

詳しく知りたい人のために、万有引力を表す式を示しておきましょう。

F=Gm1m2r2

ここで、m1とm2はふたつの物体の質量(単位はキログラム、kg)、rは物体間の距離になります。Gは万有引力定数と呼ばれ、

G=6.67259×10-11[m3kg-1s-2]

です。
この重力に引っ張られているために、地上にある水もまた、バネに引っ張られているのと同じように、位置エネルギーを持つのです。

地球の地上付近では、質量mの物体の対して、重力加速度

g=9.80665[m/s2]

を掛けて、

F=m×g

の力(重力)がかかっています。
オマケですが、実は、これは地球との間で生じている万有引力を、地上付近で近似した計算式です。
万有引力の式で、m1が地球の質量、rが地球の質量中心からの半径だったとすると、m2以外は定数となりますよね。つまり、

gGm1r2

なのです。

さて、この重力という一定の力がかかった状態で、高さh[m]まで物体を持ち上げたとすると、その位置エネルギーは、力と距離の掛け算(より詳しくは、Fを距離で積分した関数に対して、基準点からの高さhに変数を置き換えた関数)になるので、

E=m×g×h

になります。
式の形を見るとよくわかりますが、高さhが高いほど、位置エネルギーも大きくなります。

たとえば、富山県にある黒部ダムの、関西電力黒部川第4発電所の放水路の高低差(最大有効落差)は、545.5mもあり、流れ落ちる水の力を利用した水力発電が行われています。

この放水口から流れ出る水は、毎秒72㎥だそうです。せっかくなので、ちょっと計算してみましょう。
ここから、1秒間、水を放出したとします。水の比重は、普通の気温ではおよそ1です。1㎥の水の重さは1t、つまり1000kgになります。
これにより、1秒間に流れ出る水の質量は、72000kgになります。
位置エネルギーの式を使うと、1分間の放水がもたらすエネルギーは、

72000×9.80665×545.5=385165985.4[J]

エネルギーの単位J(ジュール)は、1秒あたりの値に直すと、「仕事率」と呼ばれ、単位がW(ワット)になります。これは、電力の単位と一緒ですね。

ダムから水が流れくだることで、1秒間に3.85億Jのエネルギーになるとすると、これは3.85億Wの電力に相当することになるわけです。

一般家庭の電力消費量は、消費が多い大家族の家庭で、1日約18kWh(キロワット時、つまり1000W×60分の量)ということですから、このエネルギーは7700万世帯が1日に使うのと同じ電力に相当することになります。

すごいエネルギーですね!

一方で、高低差がなくなると、水が持つ位置エネルギーは、それだけ小さくなります。

江戸時代初期に、人口が急増した江戸の街で不足した生活用水を確保するために作られた玉川上水は、多摩川の水を現在の東京・羽村市から引き込んでいますが、羽村の取水口と江戸の入り口だった四谷大木戸との距離は43㎞もあるのに、その高低差は約92mしかありませんでした。
ほとんどが平らな関東平野で、使える位置エネルギーが小さいにもかかわらず、「水を便利に使える都市」を作ることが、いかに大変だったかがうかがい知れます。

ミライリケジョ2019、水を生かした街づくり大特集の次回は、街に水を引く「水道」の裏側にひそむ科学について考えてみます!