私たちが日ごろ口にするあらゆる料理は、様々な化学反応によって生まれています。食品に対して調理を施し料理ができあがりますが、調理とは科学なのです。ならばレシピとは、ある料理を再現するための“実験手順書”と呼び換えてもいいものでしょう。

そんな“実験手順書”の中に「塩 少々」「油 適量」なんて曖昧な表現は許せない! とついつい思ってしまう理系の方に向けた「理系すぎる温泉たまごの作り方」をご案内します。どこまでついてこれるかで、アナタの理系度が診断できるかも!?

おいしい「温泉たまご」の再現方法とその考察

目的

黄身は半熟、白身はとろとろのおいしい温泉たまごを作る。

方法

〈材料〉(1人分)
・たまご(鶏卵) 1個~

〈調理法〉
1. たまごを冷蔵庫から出し常温に戻しておく。
2. 鍋に水を投入し加熱する。
3. 沸騰したら火を止めて冷水を加え、湯の温度を70℃に下げる。
4. たまごを殻のまま鍋に入れ25分間放置する。湯の温度が65℃以下になったら弱火にかけ、70℃に達したら再度火を止める。加熱している間は十分に撹拌すること。
5. たまごを冷水で冷やし器に割り入れて盛り付ける。

結果

ほどよい固さのおいしい温泉たまごが完成した。

考察

卵白が柔らかい状態を保ちながら卵黄が適度に固まるのは、タンパク質の熱凝固性によるものである。卵黄と卵白の変性温度はそれぞれ異なり、卵黄が65〜70℃、卵白が75〜80℃で凝固する。

卵黄の主要タンパク質である低密度リポタンパク質(卵黄タンパク質の約65%)と高密度リポタンパク質(約15%)は、変性温度がいずれも65〜70℃であるため、65〜70℃の湯に入れておくことで流動性を失いゲル化した(俗にいう半熟状態)。

しかし今回の調理で80℃で完全凝固するはずの卵白の一部が湯温を65〜70℃に保ったにもかかわらず凝固したのは、含有されるタンパク質の種類によってもまた、変性温度が異なるためだ。

卵白のタンパク質のオボアルブミン(約50%)の変性温度は75〜80℃である一方、次に含有量が多いオボトランスフェリン(約10%)の変性温度は60〜65℃である。湯温を65〜70℃にすることでオボトランスフェリンが凝固しオボアルブミンは凝固しなかったため、卵白の一部は柔らかい状態が保たれた。

結論として、黄身は半熟、白身はとろとろのおいしい温泉たまごを作るために重要なことはオボトランスフェリン、低密度リポタンパク質、高密度リポタンパク質が熱変性するよう湯の温度を65〜70℃に保つことである。

※卵を湯につける時間は卵の温度や室温、大きさなどによって前後する


理系・文系を問わず、レシピに潜む科学現象を理解することで、あなたの料理の腕もさらに上達するかもしれません。そんな観点でも活用いただけたら幸いです。では、第2回(毎月22日更新予定)もお楽しみに!

(記事監修/管理栄養士 棚橋伸子)

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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