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Q:現在のお仕事を教えてください。

私は猫や犬などの小動物臨床の獣医師で、大阪府の守口市で夜型の動物病院『まねき猫ホスピタル』を開業しています。今年で開業してから24年目になります。夜型の動物病院は全国でもあまりないと思いますが、飼い主の方が仕事を終えたあとにゆっくりと診察に来ていただけるように、診察時間は午後4時からにしています。

 

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Q:石井先生は普段、ご自分の病院で診療をしながら、新聞や雑誌で連載をしたり、講演を行ったり、幅広い活動をされています。

千葉大学医学部や鳥取大学農学部共同獣医学科と次世代のガン治療の共同研究も行っています。動物の世界も医療の発達でほとんどの病気が治せるようになりましたが、人間と同様にガンはまだ治らないのです。ガン治療の研究は、人間が最先端だと思っている方が多いかもしれませんが、実は動物のほうが進んでいる面があるのです。人間を対象とした臨床試験にはさまざまな規制がありますが、動物を対象とした場合は飼い主さんの同意があり、獣医師がいいと判断すれば、比較的簡単に行うことができるのです。
 
犬や猫のガンが治るようになれば、その研究を人間への治療にいかすことができます。そう思いながら、千葉大学と鳥取大学の研究をお手伝いしています。

 
 

Q:高校まで大阪で過ごし、大学進学のために北海道に行くことになりました。生活環境が大きく変わりましたが、すんなり対応できたのですか?

私は偏差値ではなく、「獣医師になるにはどこに行けばいいのか」という基準で大学を選びました。ただ私の学生時代は今と違ってインターネットがなかったので、獣医師になるために大学でどんな授業をするかなど、それほど詳しくは調べませんでした。だから実際に獣医学科に進学したあとは、驚きの連続でした。例えば、北海道は寒いことは知っていましたが、恥ずかしながら雪が降るのを知らなかったんです(笑)。ある日、朝起きたら雪がすごく降っていたので、生まれ育った大阪に住んでいるときの感覚で「この雪だったら今日は休校だろう」と思って寝ていたら、授業が普通に始まっていたこともありました。
 
そんなふうに何も知らなくても、「獣医師になって、動物の病気を治して、長生きしてほしい!」という強い気持ちがあれば、獣医師をやっていけるんですよね。

 
 

Q:将来、獣医師を目指す中高生にアドバイスをお願いします。

やっぱり動物を飼ったほうがいいと思います。一緒に暮らすことで、わかることがたくさんあると思います。例えば、おなかが張っていることと太っていることの違いなど、そういう基本的なことに始まり、老いることや命の尊さというのも身を持ってわかるようになります。獣医は実学なので、そこはわかってほしいと思います。
 
臨床の世界では、大学で学んだことはあまり役に立ちません。大学で学んだことはあくまでも基礎で、それをベースにして自分なりにどれだけ治療について考えることができるかが大事になってきます。動物たちを取り巻く環境は刻々と変わりますし、治療法も日々進歩していくからです。「どうすれば病気を治せて、動物たちを長生きさせることができるのか」という探究心が、現在の獣医師には欠かせないと思います。
 
そういう意味では、机上の学問ばかりをするのではなく、文学に親しんだり、映画や絵画を見たり、いろんな経験をしたほうがいいと思います。ありきたりの言葉ですが、「木を見て森を見ず」という獣医師が最近増えているような気がします。いろんなことを知っていると、幅広いアプローチで物事を考えられます。これから獣医師を目指す方は、積極的にいろんなことにチャレンジしてほしいです。

 

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(取材・文=川原田剛 写真=西木義和)