小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げ予定日が月末に迫る、本日11月10日!
 
講談社 ヤングマガジンで『衛星ガール(サテライトガール)』の連載が始まります!
舞台となるのは「男女比126:4」の工業大学。夢をあきらめ、就職に有利な工業大学を選んだ主人公・穂積恒治郎。彼の前に現れたのは、一人のリケジョと、空き缶。ではなく、缶サイズの模擬衛星 “CanSat”(カンサット)だった…!
 

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『衛星ガール(サテライトガール)』(c)穐山きえ/ヤングマガジン/講談社

 
 icon-caret-right  『衛星ガール』の作品ページ http://yanmaga.jp/contents/satellite_girl/
 
Rikejoでは『衛星ガール』の新連載を記念し、“衛星ガール” として活躍するリケジョの皆さんにお話しを伺いました。今回ご紹介するのは、創価大学 衛星開発グループ(学部3年生)の門倉美幸さん、そして、先輩リケジョである同大学OGの森見真弓さん(無線機メーカー勤務)のお二人です。
 
 

☆私が“衛星ガール”になった理由

― 人工衛星を作りたいと思ったきっかけは?
門倉さん:小学生のとき、宇宙からのテレビ中継で、宇宙飛行士の野口聡一さんを見て『人って宇宙に行けるんだ!』とすごく夢を与えられました。私もそんな風に夢を与えられるようになりたいな、と宇宙に憧れて。人工衛星は、大学で先輩に声をかけられたことがきっかけで始めました。
 
将来も、手を動かしてものづくりをしたいと語る門倉さん。一方、先輩である森見さんと人工衛星との出会いは、一度社会人を経験してからのことでした。
 
森見さん:アンテナがやりたかったんです。電波って目に見えないじゃないですか、そこが面白いと思って。アンテナのなかで一番難しいものを作ってみたかったんです。人工衛星のアンテナは地上と通信するために不可欠で、信頼性重視の設計が求められます。打ち上げたら、直すことができないですからね。
 
 

☆「CanSat」は衛星開発の第一歩

 

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ローバー型CanSat(提供:森見真弓さん)

 
CanSat(カンサット)とは、350ml「缶」サイズの模擬人工衛星。(実際のサイズ制限は、大会や部門により規定が定められています。)模擬とはいえ、実際に宇宙を目指す人工衛星や探査機に通じる基礎技術が求められるCanSatは、多くの学生の登竜門。大会では、ゴールまでの時間や距離を競い合い、ロケットで打ち上げられたCanSatが、パラシュートを開き、ローバーの自動運転でゴールを目指す「ランバック部門」、最終地点まで飛行による到達を目指す「フライバック部門」が代表的です。
 
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CanSatを搭載したロケットの打ち上げ(提供:森見真弓さん)

 
― 高校生は「缶サット甲子園」に出場するようですが、大学生は?
森見さん:国内では「能代宇宙イベント」、国外ではアメリカで開催の「ARLISS(アーリス)」に参加しました。ARLISSはローバーや試験機で出場しました。地上4kmまで打ち上げるので、ロケットから切り離された後にパラシュートがちゃんと開かないと、そのまま落下して壊れてしまうんです…。なので、パラシュートを慎重に畳む作業は大変でしたね。
 
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パラシュートで着地したローバー型CanSat(提供:森見真弓さん)

 
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ARLISS出場時の様子(提供:森見真弓さん)

 
ARLISS の会場となるのは、GPSで集合場所が指定されるという広大な砂漠。車で時速30kmも出せないほど激しい凸凹地面も、実際の惑星探査はもっと厳しい条件だから、これくらい耐えられるものを作らなければ、と森見さん。そして、1週間ほど滞在するARLISSでは、リケジョならでは(?)の教訓も得られた、と門倉さんは話します。
 
門倉さん:私は学部1年生の時にARLISSに参加したのですが、博士の先輩と2人での参加だったので、なかなか自分の意見が言えなくて…。でも、これを機に、自分の意見を伝えるように心がけています!
 
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ARLISSの会場で作業を行う門倉さん(提供:門倉美幸さん)

 
その後、リーダーやプロジェクトマネージャーを経験し、今やグループを引っ張る存在となった門倉さん。
「女子は数人でしたが、その分、タフですよ(笑い)」と森見さんも学生時代を振り返ります。そんな森見さんにとって、忘れられない出来事となったのは、実際の人工衛星を宇宙に打ち上げた大学の一大プロジェクトでした。
 
 

☆ついに宇宙へ!願いよ叶え!

 
2010年、金星探査機「あかつき」の相乗り衛星としてHII-Aロケットにより打ち上げられた創価大学の超小型衛星「Negai☆″」。流れ星に見立てられたこの衛星は、「子どもの夢、応援プロジェクト」で集まった多くの子供たちの「願い」を乗せて宇宙へと飛び立ちました。しかし、その夢を叶えるまでには数多くの試練が待ち受けていたのです。
 

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「Negai☆″」には多くの子供たちの夢や、赤ちゃんの名前が寄せられました(提供:森見真弓さん)

 
― ミッションを振り返って、どんな苦労がありましたか?
森見さん:まず必要だったのは、宇宙用のアルミでした。航空機に使うような特殊な硬いアルミなので、取り扱う会社を探し回り、交渉をして何とか入手しました。アルミは張り合わせるのではなく、削り出すのですが、その技術がある会社が数少ないんです。
 
ようやく衛星が形になると次は試験段階へと進みます。ところが、試験台と衛星をつなぐ冶具のネジが合わない!そこで、自分たちの衛星に合わせ、手探りで冶具を作ることに。こうして様々な課題を乗り越え「Negai☆″」のロケット搭載を見届けた森見さん。ここで卒業を迎えたのですが…
 
森見さん:打ち上げ後1週間、衛星に“写真を撮影して”と指令を出しても届かなくて!「Negai☆″」の寿命は約3週間。このまま大気圏に突入して燃え尽きてしまうんじゃないかと、本当にこわかったです。報告を受けて、すぐに代々の先輩と結集し、色々な確認作業をしました。最終的には無事に指令が届いて、写真も送られたと聞いて、ほっとしました。
 
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HII-Aロケットから放出された「Negai☆″」(提供:森見真弓さん)

 
「Negai☆″」の打ち上げを見届けるため、森見さんは修士課程を1年延長。このプロジェクトを最後に、研究室は教授の退官に伴い閉鎖に。その後に入学した門倉さんは…
 
 

☆衛星ガールが周囲を引き込んでいく

 
門倉さん:私に「人工衛星をやらないか」と声をかけてくれたのは、森見さんの研究室の後輩の方。でも、その時すでに研究室もなければ、サークルもない!まっさらな状態でした。そこから、学部生でも、院生でも参加できるよう横断的な「グループ」を立ち上げ、3年かけて、ようやく設計や将来的に打ち上げる衛星の技術実証をする模擬衛星を作れるようになりました。
 
― 0からのスタート。まさに「衛星ガール」のストーリーと重なります
森見さん:長期プロジェクトが多いので、参加するタイミングによって携われることも変わります。門倉さんのように学部1年生からやっていると、設計・開発・打ち上げの一連の流れが見られて、とても良いと思います。門倉さんは、衛星の花形ともいえる「衛星設計コンテスト」で入賞しているんですよ!
 
研究室に所属する大学院生が多く参加するという設計コンテスト。設計条件は、HII-Aロケットの相乗り衛星として50cm四方以下であること。缶サイズのCanSatや、10cm四方の超小型衛星CubeSatよりも大きく、搭載できる機器が増える分、内部温度を一定に保つなど、複雑な制御が必要になるといいます。
 
― 学部生での参加で入賞とはすごいですね!
門倉さん:…いや~、実は一番大変なのはメンバー集めでした。学内チームが作れず、4か月かけて他大学を巡り、ようやくプロジェクトが立ち上がったのは、応募締切の2か月前でした…。その時に設計したのは、地震の先行現象に関係するとされる「VLF」という電波を観測する人工衛星です。拠点の離れたメンバーで進めていくのは大変でしたが、なんとか最終審査まで残ることができました!
 

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衛星設計コンテストで見事、入賞した門倉さん

 
他大学のメンバーや、先輩のところへ駆けずり回り、気づけば1週間家に帰っていなかった…それほどまでに情熱を注ぐ人工衛星をいつか打ち上げるため、門倉さんの挑戦は続きます。
 
門倉さん:現在は、実現に向けて、通信や性能の試験を行うために、模擬衛星を富士山に設置して1年間の長期運用をしています。この試験を経て、改良を加えて、最終的には飛ばす段階にもっていきたいです。
 
人工衛星を打ち上げるまでには、多くの時間・資金が必要ですが、お二人のお話からは大学や研究室の枠をこえたネットワークの大切さがうかがえます。運営、予算管理、広報活動など、すべてにおいて主体的に活動されています。
 
― 人工衛星には「理系」以外の要素もありますか?
門倉さん:技術的なコンテスト以外にも、衛星から取得した情報の活用を考えるアイデアソンなどもあります。アイデアという点では文系、理系は関係ないです。むしろ、ビジネスや法律の観点から宇宙利用を考えていく上では、文系の視点も大切になると思います。
 
何でも手を広げられる学生のうちに、様々な視点から宇宙をみたいと話す門倉さん。チームワークを経験していくなかで、自分だけでなく周囲のモチベーションを維持する大切さも感じていると言います。そのため、大学では経営学や心理学といった文系科目も積極的に学んでいるそうです。
 
 

☆宇宙をみせてくれる、地球を教えてくれる

 
人工衛星には様々な役割があります。天気予報、衛星放送、GPS…日常生活を支え、地球をみつめる「目」として。宇宙から広範囲、高精度の情報を送ってくれます。そして、惑星探査のように、宇宙や私たち自身を知る手がかりを掴むことにも、大きな期待が寄せられています。
 
― これから、どんな人工衛星を作っていきたいですか?
門倉さん:地震に関するデータ取得も、地上で世界中に観測器を設置するとなると大変です。宇宙から観測できれば、世界中のデータを集められるので、VLFと地震の関係性も明らかになると思います。大学院では、宇宙にパラボラアンテナを設置して天体観測を試みるプロジェクトに携わりたいと思っています。
 
JAXAでは有償化による超小型衛星の放出の動きもあり、民間企業の参入をはじめ、宇宙への敷居が低くなることが期待されています。「いずれは大型衛星の開発に携わりたい」と話す門倉さんが、社会に羽ばたく数年後がとても楽しみです。
 
次回は、芝浦工業大学「芝浦衛星チーム」の皆さんを紹介します。リケジョのお三方に加え、チームを率いる男子学生も登場します!(Rikejoは男子禁制じゃないのでご安心を。)
 
人工衛星に青春をかけるキャンパスライフ!ぜひ、ヤングマガジン『衛星ガール』を読んでくださいね!
 
 
ライター プロフィール

profile

堀川 晃菜(Horikawa Akina)
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。

 
 


【関連リンク】
●創価大学衛星開発グループ ALIEN’S活動記録 http://ameblo.jp/sokasatellite/
●大学宇宙工学コンソーシアム UNISEC http://www.unisec.jp/flash/index.html
●関連イベント
・能代宇宙イベント http://noshiro-space-event.org/
・ARLISS http://www.arliss.org/
・缶サット甲子園 http://www.space-koshien.com/cansat/
・衛星設計コンテスト http://www.satcon.jp/
【関連トピック】
●はやぶさ2
http://www.jspec.jaxa.jp/activity/hayabusa2.html
2014年11月30日(日)打ち上げ予定。ターゲットは地球近傍小惑星「1999 JU3」。有機物や水を含む物質があるとされるC型惑星で、サンプルリターンにより、太陽系の誕生と進化、生命の起源を探る手がかりを得ることが最大のミッション。
●超小型衛星の放出機会提供事業
http://aerospacebiz.jaxa.jp/jp/ainori/
教育目的を主に提供されてきた無償事業に加え、有償化による放出機会の提供事業が始まっている。