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何かにすごいがんばっているリケジョにスポットライトを当てる新企画。
第一弾は、広尾学園の医進・サイエンスコースの高校2年生のリケジョ5人と先生を紹介します。
広尾学園の医進・サイエンスコース(略して「医サイ」)には、大学の研究室レベルの実験設備があり、
それぞれの生徒さんが研究テーマをもって、もくもくと研究に取り組んでいます。
朝や放課後のほか、休日も学校に来て、研究したり論文を読んだりしている彼女たちに話を聞いてみました。


世界トップレベルの研究者と渡り合う森下彩華さん
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「私は最初、ES細胞やiPS細胞を用いた研究を行っていましたが、最近ではプラナリアという
再生能力の高い生き物を使って研究を進めています。細胞の寿命を規定するテロメア合成
の分子機構の解明を目指しているんです。実は最近、私とまったく同じアイデアの論文が、
イギリスの研究グループから発表されてしまったんです。ショックすぎて本当に落ち込みました。
でも、その研究グループが実験結果から考察している内容は私のアプローチとは若干違うので、
もしかしたら希望があるかもしれません!今データを集めているところです。高校生は朝とか
放課後とか研究できる時間が限られているので、知識や技術で勝負するのではなく、研究者
たちが思いつかないようなアイデアで勝負していきたいと思っています」

 テロメアとは?
私たちの体は約60兆個の細胞からできていますが、もとをさかのぼると、たった1つの受
精卵から出発しています。1つの受精卵が何度も分裂を繰り返すことで、60兆個の細胞
からなる体ができるのです。もし永遠に細胞が分裂を繰り返したら、私たちの体はおかし
なことになってしまいます。いわゆる癌です。そうならないように細胞には寿命があって、
ヒトの場合、細胞分裂は50回くらいで停止するようになっています。その回数を決めてい
るのが染色体の先端にあるテロメアという部分。テロメアは細胞が分裂するたびに短くな
り、これが細胞の寿命を規定しているのです。ところがES細胞やiPS細胞には短くなった
テロメアを伸ばす能力があるため、分裂回数に制限がありません。また、プラナリアは、
体を半分に切っても、それぞれが体全体を再生して2匹になる不思議な生き物で、再生す
る際、細胞は何度分裂してもテロメアが短くならないことが知られています。いったいどの
ようにしてテロメアの長さが維持されているのか、森下さんは「寿命」「生殖」「再生」という
概念をつなぐメカニズムを調べています。
2012年2月、イギリスの研究グループは、プラナリアは生殖様式の違いによって、テロメ
アの長さが維持されるしくみが異なるという興味深い成果を報告しました。
こちらから原著論文が読めるので、興味のある人は挑戦してみてください。


医師と女優という2つの夢を追う玉村ドレミさん
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「もともと理科は好きだったんですけど、医サイに入ってから本格的に理系に目覚めました。
研究では、おいしい野菜をつくるために、シロイヌナズナという植物を使って、カルシウム
吸収に関わる遺伝子を調べています。カルシウムは植物の5大栄養素の1つですが、人工
的に成長を促す植物工場などでは、カルシウム欠乏が起こりやすいんです。研究を通して、
この問題の解決に貢献できたらと思っています。女優になるという夢もありますが、いまは勉
強したい気持ちのほうが強いので、まずは医者を目指します!」


生物学の研究しながら新体操部の部長も務める奥村華乃子さん
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「私はシロイヌナズナを使って、マグネシウムイオンが細胞内に取り込まれるしくみを調べ
ています。マグネシウムも植物の5大栄養素の1つで、光合成を活発にする重要なミネラルで
す。将来の夢は鑑識になること。もともと警察の仕事をしたいと思っていて、高校に入って
から、サイエンスの立場から警察の捜査活動ができる鑑識という職業があることを知って、
絶対になりたいと思ったんです。狭き門と言われていますが、夢をかなえるために頑張りま
す!」


環境化学分野の研究でエネルギー問題の解決に迫る小林真由子さん
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「理系を目指し始めたのは、医サイに入ってからです。研究活動を通して、自分は理系のほ
うが向いている気がしたんです。いまは光触媒の研究をしています。超音波の照射や有機
染料の添加によって、水素の発生効率が上げられないか調べています。でも最近は、音響心
理や楽器の音が出る仕組など、「音」にも興味があるので、大学では音に関わる研究がしたいと
思っています。いろんな研究室を調べて、それをもとに行きたい大学を決めました。ちなみに普
段は『想い出がいっぱい』とか80年代の曲が好きでよく聴いています。あとアニメソングも好き
です」

 光触媒とエネルギー問題
光が当たると触媒になる物質のことを「光触媒」といいます。身近な例では、植物の光合
成がそうです。コップに入った水に光を当てても何も起こりませんが、植物の葉に光が当
たると水が分解されて、酸素と水素イオンと電子が生成します。これは、葉に光触媒作用
をもつ物質が存在するからです。近年、化石燃料に代わる新エネルギーとして水素に注目
が集まっていることから、水から水素を取り出すための光触媒技術の研究が盛んに行われ
ています。実際に燃料として使うには、水素の発生効率がまだまだ十分ではありませんが、
この分野は日本のお家芸とも言われ、世界をリードしています。


獣医師を目指す動物が大好きな丸山梨乃さん
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「私はプラナリアを使って、神経分化にかかわる遺伝子を調べています。将来の夢は
獣医師になること。おばあちゃんが動物を飼っていた影響もあって、動物が大好きで、小さい
頃からずっと獣医師になることが夢なんです。今も家で“ココ”という名前のミニチュアシュナウ
ザーを飼ってかわいがっています。ただ、理系科目があまり得意ではなくて、特に数学が苦
手なので、獣医学部に入るためにこれから頑張りたいと思っています。そのためにもっと数
学を好きにならないとと思って、数学をテーマに研究しているクラスメイトにおもしろさを教えて
もらっています」

 再生医療の研究にプラナリアが活躍
切断されたプラナリアが、どのようにして脳や筋肉、皮膚、内臓などを再生させているの
かを知ることは、将来の医療技術として期待される再生医療の研究に大いに役立ちます。
再生医療では、どんな細胞にもなれるiPS細胞やES細胞から、どうすれば神経細胞や心
筋細胞、肝細胞など特定の細胞に分化させることができるかが、実用化への大きな課題
になっています。それぞれの細胞分化にかかわる遺伝子がわかれば、iPS細胞やES細胞
から特定の細胞に分化させるための重要なヒントなります。


医進・サイエンスコース マネージャーの木村健太先生は、研究者として軌道に乗りかけた矢
先、「研究の楽しさを高校生たちに伝えたい!」と一念発起し、大学に入り直して教員免許
を取ったという熱い先生。
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「最初、この学校に来たとき、理科室にはガスバーナー1本しかありませんでした。それ
から実験設備を整え、生徒たちに必死に研究の楽しさを伝えてきました。その甲斐もあ
り、今では生徒たちが自主的に研究に取り組んでくれています。先日、生徒たちに『今
の実験が止まってしまうから電気泳動装置を買ってほしい』と言われたんですけど、
予算が足りなくて買えなかったんですよね。そしたら生徒たちは自分達でお小遣いを
出し合って買おうとしていたんです。購入できるよう急いであちこちお願いしに行きまし
たよ(笑)。そもそも高校生には研究をするポテンシャルは十分にあるんです。それを
引き出すきっかけが、これまでの理科教育には足りなかったのかもしれません。ちょっと
大げさかもしれませんが、日本の教育を変えるくらいの気持ちで、これからも生徒たち
の可能性を引き出せるようがんばっていきます!」