とても頭の良い人だな、と感じているK先生に、
なぜ先生がその分野に進んだのか (進学振り分けでその学科に決めた理由)
をきいたことがある。
 
 
 
一番高級だったから
 
 
 
とのことであった。
そんな理由で自分の将来を決める人がいるのかと驚いたが、
いい頭を使って自分で決めているのは間違いない。
 
 
 
別の分野のF氏もとても頭の良い人で、大学の最難関学科の一つの出身である。
その学科を受験した理由を聞くと、やはりK先生と同じ理由だった。
頭の良い人の考えることは私にはよく分からない。
 
 
 
それに、私の観察範囲にいる何人かの頭の良い人たちは何故か皆、
妙な趣味に対して才能の無駄遣いと感じるような心血の注ぎ具合だったりして
ますます謎めいているのだが、
それはそれで素直な決め方だと思う。
 
 
 
とにかく、高級な印象のする学問分野には、高級だからという理由でその道に入る若者がいたりする。
 
 
 
一方、私が根城にしている情報工学系分野には、
小説・マンガ・ゲーム・アニメなどから影響を受けた人々が少なからず存在する。
もしかするとフランスのような国では少し違うのかもしれない。
 
 
 
なぜならあるマンガがとても充実しているパリの本屋は、
日本のマンガ読者のイメージとは似つかぬおしゃれな地区に普通にあった。
 
 
 
これに対して、アメリカのマンガ読者(nerd) の社会的地位は日本と似ていると思う。
日本においてマンガは、低俗な印象を持たれがちである。
普通の日本人にとっては、少なくとも「高級」感は全くないであろう。
 
 
 
マンガのとらえ方の違いを意味しているのかもしれない。
 
 
 
日本は情報工学で世界の最先端をいっている国である。
その理由の一つは、秋葉原があるから、だと言われている。
ここで言うのは、ポップカルチャーが手に入る秋葉原ではなく、
電子部品が手に入る秋葉原のことだ。
 
 
 
研究に使う物品を秋葉原に買いに行く、と初めて聞いたときは意外な感じがしたが、
私がいた時代の東大工学部は秋葉原への出張(旅費請求) が普通に通る環境であった
(今は違うかもしれない)。
 
 
 
でも、電子部品の秋葉原にもポップカルチャーの秋葉原にも
何か同じものが通低しているのかもしれない。
おおっぴらに語られることこそ無いものの、
秋葉原をベースにした日本が世界の最先端を行っている理由の一つは
小説・マンガ・ゲーム・アニメの世界観に好意を持つ人々が
参入していることでもあるのではないかとも思う。
 
 
 
だって、攻殻機動隊が学術分野からちゃんと参照されているのだよ。
このとおり。
(東京大学 舘研究室: 光学迷彩)
http://www.star.t.u-tokyo.ac.jp/projects/MEDIA/xv/oc-j.html
 
※下部、参考文献に

  • 士郎正宗, 攻殻機動隊, 講談社, 1991

 
 
 
つまり、研究者は現在の技術の向こうに攻殻機動隊を夢見ているわけだ。
 
 
 
ところで、攻殻機動隊を知らない人のために解説しておくと、
これは技術書ではなくマンガである。

© 2011 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会
http://www.kokaku-a.com/index.php
 
 
 
新技術が受容される期間というのはそれほど長くなくて
数年といったところが一般的なので、
あまり古い技術書を読んでも意味はない(歴史の勉強にはなる)。
 
 
 
それに比べて、世界観 (Vision)の寿命はずっと長い
 
 
 
というわけで、攻殻機動隊が出版されたのは今から20年以上前のことだが
今から読んでも十分深い意味がある。
 
 
 
ちなみに配偶行動は英語でMating といい、ナメクジは Slug だ。
 
 
 
文:鈴木ユキ (元情報工学研究者)
 
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