経済産業省補助事業「理系女性活躍促進支援事業」の一環として運用を開始した『リケジョナビ』。スタートしたばかりのこのサービスは、今後リケジョたちの就職活動や、志望企業の選択の可能性を広げるツールとなるかもしれません。そこで、現役の大学生・大学院生のリケジョたちに集まってもらい、前編では、まずは彼女たちの「就職観」や「就活にまつわるホンネ」をリサーチ。就職に関してどんな理想を持ち、「就職活動」ではどんな情報を参考に志望企業を絞っているのか、具体的な意見を聞いてみました。そして後編では、そんなリケジョたちに実際に『リケジョナビ』を使ってもらい、どんな感想を抱いたのかを聞きました。
 
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<座談会参加者>
写真奥左から
渡邊さん/北里大学 医療衛生学部健康科学科4年
大垣さん/東京理科大学 理工学部機械工学科4年
松岡さん/東京大学大学院 工学系研究科 修士2年
林さん/東京理科大学大学院 理学研究科 修士1年
 
写真手前左から
鈴木さん/東京工業大学 工学部電気電子工学科4年
滝沢さん/東京大学大学院 総合文化研究科 修士2年
野口さん/慶應義塾大学 環境情報学部環境情報学科4年

 
 

rikejonavi 『リケジョナビ』とは?

リケジョの採用に関心のある企業約200社(現在)への調査を元に、特定の業界や企業が新たに採用するリケジョに求めるスキルを整理。サービスを利用する学生は、大学での履修科目や専攻分野などを入力することで、スキルマッチングの度合いを把握でき、就活に役立てることができるというシステムです。

https://tc-navi.jp/rkj/

 
 

リケジョの就活、どう考える?
=就職活動の時に知っておきたい情報とは?=

 
現役理系女子大学生・大学院生が、「就職」を控えて直面する迷いや疑問、そして、彼女たちが就活で重視していること、また求めている情報のことなど、本音を語り合ってもらいました。
 

【気になる本音 その1】
就活時に知りたいのはどんな情報?

 
──就職を希望する業界や企業を決めこんでいく中で様々な情報収集をすると思います。みなさんは、エントリーシートを出す前に、その企業のどんなことを知りたいと思いますか?
 

takizawa私は製薬会社や化学薬品を扱う企業に興味があるんですが、「人の健康に役立つ」ことをしたいというのが根底にあります。なのでまず詳細に知りたいのは、その企業がどんな研究を、どこまで自社でやっているかということ。研究にどれくらい投資をしているのかもリアルな情報として知りたいですね。

 

watanabe私は治験やMR(医薬情報担当者)の仕事に興味があります。あと、不況に強いと聞いている化粧品メーカーも気になっています。情報として知りたいのは、仕事内容なんですが、やりがいや面白さは就活サイトでもよく見るけれど、逆に辛いことや大変なことも最初に知っておきたいですね。採用の男女比なども、過去実績で見せてもらえるとリアルにイメージできると思います。

 

hayashi私は化学・エネルギー関連の仕事やITにも興味があります。企業の情報として知りたいのは、経営者の理念です。そこで自分の学んできたことが活かせるかどうかを知りたい。個人的には結婚して子どもを産んでからも仕事を続けていきたいので、実際の女性社員の育休後の復帰率なども知りたいです。

 

suzuki私は鉄道やIT、教育と、興味の幅は広くて、実際に自分が培ってきた技術が、どこでどんなふうに役にたつのかを具体的に知りたいですね。あと、やはりどうせなら長く働ける職場がいいと思うので、社風や職場の雰囲気も、リアルに知りたいです。

 

ogaki私は昔からずっと飛行機が好きなので、重工業系やエアラインでの仕事をしたいと考えていました。機体がどういう過程を経てつくられるのかを調べるうちに、設計に携わるなら重工業のほうだと思い、就職先はそちらに絞っていきました。実際にインターンシップにも参加して、女性だけの懇親会にも出てみたりして、自分が長く働けるかどうか考えるヒントにしました。

 

まとめ

やはり、働くなら「活躍したい」「役立ちたい」という気持ちが強いリケジョのみなさん。実際に、自分がどう活躍できるのか、何ができるのかにはこだわりがあります。一方で、「長く続けられるのか」「女性社員が実際どんなふうに働いているのか」というリアルなイメージやロールモデルを見てみたいというのも、皆さん共通の思いのようです。

 
 

【気になる本音 その2】
就活時、企業や業界の情報はどうやって手に入れている?

 

──就活に際して、実際にどんなところから情報を収集しますか?

 

ogaki私はインターンシップに参加した企業から、すでに内定をいただいているのですが、リアルな職場の雰囲気はそこで知ることができました。あとは企業のホームページで中期計画やIRを見て、自分が社員として働き始めた時の会社の状況を知るヒントにしました。四季報なども見てましたね。ただ、女性版を見てみても「NO DATA」のところがけっこうあったりして……。

 

takizawa四季報は、あの量を読みこなすのは大変ですし、どうしても大企業を選びがちになってしまいますよね。なのでもっと、女性の働きやすさがわかりやすくデータ化されているといいなと思います。

 

ogaki産休・育休からの復帰率にしても、「100%」と回答していたとしても、実際には辞めている人もいるでしょうから、現実の数字を知りたいなと思いました。厚生労働省が打ち出している「くるみんマーク」(※子育てサポート企業として、厚生労働大臣の認定を受けた証)にも、通常のものとゴールドとかプラチナとかがあって、その違いもよくわからなかったですし。

 

hayashi「くるみんマーク」なんてあるんですね。初めて知りました。四季報や企業が発信するデータは、自分で読み取る力が試されますよね。就活となるとどうしても慎重になるので、私は企業の決算報告書や経営者の著書を読んだりして、これからの時代の捉え方などにも注目して情報を集めています

 

watanabe就職サイトをよく見たりするんですけど、詳細はそこではわからないですよね。企業のホームページまでいって見ないとわからない。だから、気になる企業の情報は何度も見るけど、自分が知らない企業のことは結局調べられずに終わってしまうような気がします

 

suzuki経営者や職場の人たちが目指しているものに共感できることが重要なので、そうした企業のリアルな情報は、どうすれば手に入るのかが、私もイマイチよくわからないです。

 

watanabe口コミで就活生の声が書き込まれてるサイトがあって、そこはたまに見ますね。

 

ogaki「みん就」(「みんなの就職活動日記」)ですよね。私は「就活会議」というサイトを見ていました。登録するとメールが届くんです。「今、二次選考を通った人から投稿がありました」とか。筆記テストはこんな問題だったとか、面接は何人でとか、けっこう役立ちました。わざわざ嘘を書き込む人はいないだろうから信頼できましたし

 

matsuoka「みん就」とかは選考段階の学生の声しか拾えないので、私は転職サイトも見て、辞めた人の声を参考にしたりしてました。すべてを真に受けるわけじゃないけれど、いいところも悪いところも、あらかじめ知っておきたいので。

 

まとめ

企業情報入手の定番である「四季報」は、リケジョも参考にしているようですが、見方がよくわからなかったり、実情が出ているのか少し疑問に思っているみたいです。さらに詳しく、リアルな情報を知るために、企業サイトや企業の経営情報などが出ているWEBサイト、会社説明会やOG・OB訪問、インターンシップなど、さまざまなチャンスを駆使しています。やはり、実際に社員の方に会うのが、一番リアルな空気感がわかるということで、最大の情報源ではあるようです。

 
 

【気になる本音 その3】
自分の専門分野は企業にどれくらい必要とされている?

 

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出展:平成26年度 経済産業省 産業技術調査事業「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給ミスマッチ調査」
 
──経済産業省のデータで、企業が採用する人材の専攻分野として求めているものと、実際に研究者をしている人数を比較したグラフがあります。例えば、IT、機械、電気系などは多くの企業に求められていながら、研究者の実数は足りていないという、言わば売り手市場の現実が見えてきます。
 

takizawaこれをもっと早く、大学に行く前とかに見せてほしかったですね(笑)。

 

hayashi(結果を見て)やっぱりそうなんだーって思いました。せめて就活を始める前に知っておきたかったです(笑)。

 

takizawaでも、アカデミックの研究では、ここがマッチしていることが必ずしも重要ではないと思います。明るい未来のためには、生物・化学分野での基礎研究も大切ですから。なので、研究者としてのこだわりがあるなら、そのまま大学で研究を続けるという手もあると思います。

 

hayashiそうですね。就職にしても、専攻分野にこだわらず、他分野に目を向けることも必要なんだなと思いました。

 

suzuki私は大学で身につけた専門性をできるだけ活かしたいので、こういうデータがあると安心できますね。電気・電子系は他と違って、扱うテーマが細分化しているので、そのまま活かせる仕事も多いと思うので。

 

ogakiそうですよね。私は飛行機が大好きで、そこにしぼって就活したので、こういうデータを見て、違う分野のほうがニーズがあるよと言われても、ちょっと受け入れるのは難しかったかもしれないですけど(笑)

 

まとめ

企業が今、特に必要としている専門分野は、機械分野、電気・電子分野、情報分野ですが、それらの分野の人数は不足しています。これらの専攻の人は、就職に有利ということが分かります。こうしたデータをもとに、大学で専攻する分野を検討したり、将来的には、大学受験前の高校生が、将来やりたい仕事や職業にどんな勉強が必要なのかを知るきっかけになるとよいなと思いました。また、現在、採用が少ない分野の人が、他分野にも目を向けるとチャンスがあるという意識啓発にもつながるとよいと思います!

 

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『リケジョナビ』で自分の可能性を知る
=『リケジョナビ』は就活にどう役立つか=

 
就職を控えたリケジョたちに、自分たちの将来の仕事を考える上で、ぜひ利用してみてほしいのが『リケジョナビ』。後編では、彼女たちが実際に『リケジョナビ』を使った感想を聞きます。
 

【どんな結果が見られる? その1】
履修科目と自分の専門を改めて整理する

 

図2

 
リケジョナビでは、履修した科目とその科目に関連したキーワードを入力することで、対象となる分野での自分の基礎力と専門力がチャートで示されます。
 
──後編の座談会では、実際に皆さんに『リケジョナビ』を使ってみてもらって、その感想を聞いていきたいと思います。まず、自分の履修科目や専攻分野を入力してみて感じたことなどを聞かせてください。
 

suzuki私の場合は必修科目が多いので、同じ学科の子は同じ結果になるとしたら、そこに自分の意思や個性あまり反映されないので、これだけで判断されるのは、自分は少し違うかなと思いました

 

watanabe改めて、ああ、こんな科目も取ってたんだなあと、思い出すことができました。

 

noguchi各科目のキーワード入力をするときに、自分が覚えているキーワードを入れられるだけでも、それはいいのかなと思いました。自分が本当にやってきたものが反映されて、自分らしさが結果に反映されるのはいいと思います。例えば同じ生物学でも、専攻分野によってまったく違う結果が出るでしょうから。

 

matsuoka私の場合は、導き出された結果はそれほど意外なものではなかったですね。自分がどういう授業を取ってきたかはわかっているので、そこに驚きはなかったです。ただ、自分のスキルにマッチした企業も紹介してもらえると、それは新しい情報として価値があると思います。思ってもみないような企業を出してもらえるとチャンスが広がりますね

 

takizawaどういう理由でこのチャートの結果が導き出されたのか、その根拠までわかると、もう少し活用の仕方の幅も広がるような気がしました

 

ogakiどうせなら大学1年から使って、将来こういう仕事に就きたいならこういう授業を取ったほうがいいですよ、っていうふうに活用できるようにした方がいいかもしれません。

 

まとめ

学部や学科名だけでは判断できない、企業のニーズとのマッチング度を知るための入力は、履修科目の細かなキーワード入力が大変な分、その結果には、個性が出るのではないかということでした。例えば、同じ名前の科目でも、それぞれの大学や習った先生によって、より深く学んだことなどが反映できるので、それは自分の勉強してきたことの特徴や得意分野であると言えます。ただ、チャートとして出る結果の根拠を知りたいとか、チャートの大きさが何を表すのかなどの疑問を持つところは、さすがリケジョだと思いました。

 
 

【どんな結果が見られる? その2】
企業が求める人材と専門性について知る

 
図3
 
──『リケジョナビ』では志望する業界において、どんなスキルが求められているかという結果をグラフで見ることもできます。皆さんは、「自分の専門性」が就職活動でどれくらい重視されると思っていますか?
 

suzuki就活で分類や分野って、そんな細かく聞かれるイメージがないんですよね。機械系も電気系も、同じ企業を目指すことが多いし、その細かい専門性の分類って必要なのかなと思いました。

 

matsuoka例えば「太陽電池」を専門にやってきたとして、企業に毎年その人材が必要ですっていうのとは違うと思うし、企業からも「これだけをやりたい」という学生は採用されないというか、ピンポイントな専門の人材は求めていないんじゃないかと思っています。

 

noguchiそうですよね。私も最初は専門性を活かして遺伝工学ができる企業を探していたけれど、「大学でやってきたことを深めたい」みたいなことを伝えても、企業からは「じゃあ、その部門に行けなかったとしたらどうしますか?」というような質問は確実に返ってくる。柔軟に幅広く活躍できるゼネラリストが求められているような気がするんですよ。

 

ogaki私もそう思います。だから面接で「希望した分野以外の部署に配属になったら?」と聞かれても、「じゃあ御社はやめます」ということにはならないですし。

 

──もし「この分野を専門にしている人を、この業界の企業が求めています」というような情報があったら活用したいですか?

 

hayashi自分の専門にマッチした業種や会社を知るきっかけになる情報は有難いかもしれないです。

 

takizawa自分の専門性や履修してきた科目が、少しでもその企業の仕事に関連していて、就職先の選択肢として可能性の幅が広がるような情報があるならチェックしたいと思います。

 

watanabe例えば自分だったら「生化学」のところがチャートとして一番大きく出ているので、そこをクリックしたら「こういう企業があります」とか、そういう情報に飛べると参考になるかもしれないです。

 

noguchi働いている人のチャートも見てみたいですね。自分と似ていれば、自分に合う企業だと判断する材料になりそうです。

 

まとめ

採用において、「専門性が求められていない」「こだわると就職に不利だ」といった意識があるようです。自分の専門性を知るだけでなく、企業がどこまでの専門性を求めているか、具体的なデータとして情報が示されるようになれば、『リケジョナビ』の利用価値はもっともっと高まるのかもしれません。

 
 

【どんな結果が見られる? その3】
『リケジョナビ』の今後の可能性

 
──最後に、『リケジョナビ』が今後どうなっていったらもっと積極的に利用したいと思うか、改めて皆さんの意見を聞かせてください。

 

watanabe自分の専門性とマッチする企業がデータとして示されたとして、そこからさらに、その企業の雰囲気だとか、離職率や転職率、さらに過去の学部別の採用実績とか、具体的な仕事内容、クチコミまで、トータルで見られるようになったら、すごく使い勝手がいいと思います。

 

ogaki確かにひとつのサイトに全部まとまっているとわかりやすいですよね。「機械工学」で就活サイトなどに登録してしまうと、需要があるのはわかるのですが何千件もメールが来て大変だったので。自分でもっと絞り込んだ形で、結果が提示されるのはいいなと思います。

 

noguchi足りない分野の人材の採用予定人数が書いてあると、現実的に自分が応募してもいいものかどうか判断する材料になるかもなと思いました。あと例えば「機械工学のイメージが強そうな会社が、実はシステムを自社で開発したいのでIT系を求めている」とか、「新規事業のためにこの分野の人が必要」とか、そういうのは、幅広い視野を持つためにも、有益な情報かなと思います。

 

matsuoka就活に役立てるのであれば、希望の勤務地とか、他にもいろいろな条件を入力して、実際に働くことを前提とした選択肢だけに絞って、できるだけシンプルなサイトにしたほうがいいと思いました。必要な情報がまとまっていて、導き出された結果から、応募までいけるような仕組みとか。

 

hayashi実際の事例として、こういう知識が入社後に役立ちましたとか、こういう研究をしていた人が今この仕事をしているとか、そういうリアルな情報を知りたいので、そういう事例も合わせて掲載されていると、就活に役立てられそうです。

 

suzuki大学での履修科目やその成績だけじゃなくて、学内、学外問わず、自分の活動を入力できるようなところもあるといいですね。あとそこで働いている人の雰囲気とか、そういうのもやっぱり知りたいです(笑)。

 

takizawa自分の学科について言えば、生物系の学生の就職先としては、例えば食品系は人気なんですけど、研究開発をしている人は少数なので、そこに絞ると難しいんですよね。あとは製薬会社、医療機器メーカーとかもありますけど、そこで就職できなかったら、専門とか考えずに就活するしかないという状況に陥りがちです。それ以外の分野にも目を向けて、その思考を崩してくれるようなものだといいなと思いました。

 
──自分の専攻に直結した業種や分野だけじゃなく、それ以外にもこういう分野がマッチする、という可能性を広げるような?
 
takizawaそうですね。同じIT系でも、生物を学んだ人向けのIT企業のように、履修科目やバックグラウンドを考慮した結果が出るといいと思いますし、可能性が広がると思います。
 

まとめ

履修科目という切り口から、意表を突いた企業紹介や分野紹介がされると、可能性の広がりを感じられますよね。将来のキャリアを考える上でも、視野を広げるきっかけになりそうです。人気の化粧品メーカーでも、実は生産部門で機械系の研究員が必要だとか、自分では思っていなかった分野に飛び込む可能性が提示されると、一般的な就活サイトとは一線を隠したシステムになりそうです。みなさんも、ぜひ一度『リケジョナビ』を試してみてください。

 

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提供/JRIA(一般社団法人 研究産業・産業技術振興協会)
http://www.jria.or.jp/