スペシャルインタビュー 向井千秋さん 「宇宙と教育のこれからを語る」

  取材レポート2017.07.14

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宇宙飛行士、医師、東京理科大学副学長、そして先輩リケジョとして現在もグローバルに活躍する向井千秋さん。日本の理系女性のパイオニアである向井さんに、現在のお仕事や理系の可能性などについてお聞きしました!

 

Q:2015年4月から東京理科大学で副学長に就任していますが、主にどのような仕事に取り組まれているのですか?

 

理系の女子が増えるための女性活躍推進と国際化推進を担当しています。それから自分がこれまでかかわってきた宇宙と教育を組み合わせた宇宙教育プログラムにも取り組んでいます。宇宙といっても、航空宇宙工学の学部があるような大学が研究しているロケットや人工衛星の分野ではありません。理科大にはさまざまな研究室があり、それぞれで最先端の研究をしています。それをうまく結び付けて、宇宙の滞在技術に関する研究を進めているところです。
 
滞在といえば衣食住です。今、国際宇宙ステーションは水や食料はすべて地球から持っていかなければなりませんが、月や火星に滞在し、安心で快適な生活環境を整えようとすると、資源を有効活用したり、リサイクルしたり、外のリソースに頼らない自立した空間をつくらないといけません。
 
衣食住の研究を通じて培った技術は、日本の社会が国外のエネルギーや食物に頼らなくても安心安全な社会を構築することにもつながっていきます。また災害時や遠隔地などで役立つ医療や情報通信の技術を開発するうえで大きな助けになると考えています。

 
 

Q:宇宙教育プログラムに対する学生のみなさんの反応はいかがですか?

 
生徒だけでなく先生たちも目をキラキラさせてやっていますよ(笑)。でも世の中ではいまだに多くの人が宇宙を特殊な分野だと思っているんですよね。宇宙の研究をしているのは特別なグループで、月や火星に行くことは自分の生活にまったく関係ないだろうと。そんなことはありません。
 
最初に言ったように、人が安全で快適に過ごし、エネルギー効率を上げ、外部に頼らない自立した社会を構築する……。それは月でも火星でも地球でも必要なことです。そういう観点で宇宙と私たちにとって身近な衣食住を結び付けて研究していけば、宇宙にかかわる研究者や技術者の裾野は確実に広がっていくと思います。
 
宇宙教育プログラムではただ単に講義を受けるだけでなく、「本物に学ぶ」ことをうたっています。それは最前線の現場で活躍する宇宙飛行士、ロケットや人工衛星をつくっている技術者、国際的な広報活動をするスタッフなどに協力してもらい、実際の仕事の面白さだけでなく、ツラさと、そのツラさを乗り越えた時の喜びを体験してもらいたいと思っています。
 
そのために実際にCanSat(カンサット)のような小さい人工衛星をつくったり、パラボリックフライト(放物飛行)実験をしています。パラボリックフライト実験では、航空機が放物線を描く飛行を行うことによって、機内に約20秒間の微小重力環境をつくり、その中でチームを組ませて実験を行います。その時は実際にJAXAが宇宙ステーションでやっているように、計画を立案する人、研究を担当する人、他のチームと調整する人などでチームを組ませて、本物さながらにやっています。

 
 

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Q:現在は政府の教育再生実行会議の委員をつとめていますが、これからの教育はどうあるべきだと考えていますか?

 
私は、子どもたちが目をキラキラ輝かせて好きなことに取り組み、明日が来るのが楽しみで仕方がないという社会をつくっていくのが理想だと思います。そのためには、現在の受験制度を変えるべきだと考えています。基本的には誰でも志望する大学に入学できるようにして、その代りにその大学の基準を満たすだけの知識や学力をきちんと身につけていないと卒業できないというシステムにする。これが一番いいのかなと思っています。
 
受験制度がないと、その分、子どもたちは小学生や中学生のころから塾に通って勉強する必要もないので、本当に好きなことを見つけるための“ゆとり”ができると思うんです。それに、今のようにハンコを押したような教育をして、同じような優等生がたくさんいても、均一で質はそろっているのかもしれませんが、発想が同じでは面白くありません。これからの日本のためには、むしろ多様性が必要だと思います。

 
 

Q:今、教える教育ではなく、子どもの能力を引き出す教育が注目を集めています。

 
人間は自分の好きなことを見つけたり、「これをやりたい!」という夢や目的を持ったりすると、たとえツラくても自分から勉強するものだと思います。
 
私は理科大で国際化推進を担当していますので、海外留学に行った学生たちと話をすると、現地の学生は「こういう理由でこれをしたいから大学に通っているんだ」と目的意識がはっきりしているというんです。ところが日本からの留学生は、「なぜ理科大に入学したんだい?」と現地の学生に聞かれても、何も答えられないというのです。それは英語の能力がないということもありますが、そもそも明確な理由がないからなんです。ただ自分の偏差値にあっていたとか、就職に強い大学だからとか、そういう理由が多いのです。
 
でも外国人と話すことで、ようやく「自分は何がしたいんだろう?」と本気で考え始めるのです。理科大の学生たちの多くは「留学して一番良かったことは、大学で勉強する目的がはっきりわかったことです」と語っています。私も、語学を学ぶよりも、そういうことに気がついたことのほうがよっぽど意味があると思っています。目的意識をきちんと持っている学生は、そこからの伸び方が全然違います。語学やプログラミングの技術が必要だと思ったら、自分で勉強するようになるのです。
 
そういうふうに、子どもたちが自発的に学ぶような環境をつくってあげることが大事だと思っています。

 
(取材・文=川原田剛 写真=神谷美寛)
 
 

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Profile

向井千秋さん
1952年、群馬県館林市生まれ。慶應義塾大学医学部を卒業後、同大外科学教室医局員として診療に従事。1988年、同大学博士号取得。1994年、アジア初の女性宇宙飛行士として米スペースシャトル・コロンビア号に搭乗。さまざまな実験を行う。1998年にはディスカバリー号に搭乗。その後、国際宇宙大学の客員教授、JAXAで特任参与や宇宙医学研究センター長などを経て、現職。また、国連の宇宙空間平和利用委員会でも議長をつとめるなど、グローバルに活躍している。

 
 


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