日本経済新聞社主催「企業に研究開発してほしい未来の夢」アイデア・コンテスト『テクノルネサンス・ジャパンは、参加企業の募集テーマに対し、理工系の学生(高専生~大学院生)を中心としたチームが、企業の技術や事業と、自分たちのアイデアの融合を図る本格的なコンテストです。
 
毎年多くの学生が、ユニークかつ、リアリティの高いアイデアを競っています。第7回目となった2014年からは、特別賞として「Rikejo賞」が新設されました!その栄えある初代の座に輝いた作品は…
 
ゲラップ 包もう!こみ上げる熱いAUTO 」
 

fig-1

 
受賞したのは、お茶の水女子大学Team hygienicです!
 
メンバーは、4年生で代表の河内あゆさん(写真右奥)、3年生の服部佑香さん(写真左から2番目)、1年生の喜多祐奈さん(写真左から3番目)、同じく1年生の牛房奈菜子さん(写真左)です。皆さん同大学の生活科学部人間・環境科学科の所属ですが、学年や専攻は異なる4人。彼女たちが考えた「ゲラップ」とは?そして、どのような過程からアイデアは生まれたのでしょうか。
 

おう吐物を包むことに価値を見出した

 

fig-2

 
―インパクトのあるネーミングですが、どういったアイデアなのでしょうか?
 
河内さん:おう吐物を、素早く・簡単に、消毒・処理するシートです。公共のスペースや医療福祉施設で、感染症を予防し、健康的で衛生的な環境を実現するというアイデアです。とくに、感染力の強いノロウイルスに対し、接触感染と飛沫感染を防ぐことを想定しました。
 
砥上さんコメント

 
―このメンバーが集まったきっかけは?
 
河内さん:私たちはライフ・イノベーション・ワークショップ・プログラム 「通称・LIDEE」の授業の一環として、テクノルネサンス・ジャパンに参加しました。第7回コンテストの5部門のなかで、藤森工業株式会社(ZACROS)の募集テーマである「未来の包む価値とは?」に応募を希望したのが、このメンバーです。
 
―包む対象を、おう吐物にしようと決めた理由は?
 
喜多さん:最初の授業で、既存の包む製品の情報をみんなで持ち寄ったのですが、そのとき私が持っていったものに「犬のうんちパック」がありました。そこにインパクトや新しさを感じて「汚いものを包む」方向性で動き始めました。
 
fig-4

 
河内さん:おう吐物をターゲットに決めてからは、インターネットでも情報を集めましたが、看護師の友人に病院での処理について話を聞いたほか、新宿駅で複数の鉄道会社から、駅構内でのおう吐の件数なども取材しました。直接、話を聞いていくなかで、おう吐が起こりやすい時期や場所など、実状が見えてきました。
 

日経新聞社・御厨直樹さん

よりよく陥りやすいのが、市場性をみずに「ひとりよがり」なアイデアを出してしまうことなんです。その点、このチームは市場を独自に調査して需要を把握していました。また、アイデアの実現可能性の高さも評価されていましたね。

 
 

「素早く・簡単に」を追求したアイデア

 
―どのような点にこだわりましたか?
 
河内さん:ノロウイルスを想定しているので、やはり処理の「スピード」を重視しました。また、所属する居住環境学 研究室の松田先生からアドバイスをもらったことで、ユニバーサルデザインの視点で考えると「誰にでも簡単に使えるか」という視点も必要だと思いました。
 

fig-5

 
牛房さん:6月末から動き始めて、最終的な形にたどりつくまでに約2ヶ月かかりました。はじめは、ケースをかぶせるとか、広くシートで覆ってその上を歩けるようにすることも検討していました。
 
喜多さん:ウエットティッシュのように、取り出す様式も想定したのですが、自由な長さに切れる方がよいという話になり、ラップの形状になりました。
 
―2種類のシートが同時に取り出せるようにしたのは、なぜですか?
 
河内さん:ラップのように取り出せる2層構造のシートで、1枚目は消毒液(ノロウイルスにも効果的な次亜塩素酸ナトリウム)と凝固剤を含み、2枚目は吸水性のある素材で手が汚れないようになっています。消毒と処理を同時に行えることで、スピードと簡便さの両立を叶えました。
 
fig-6
(画像提供:お茶の水女子大学Team hygienic)

 
 

受賞の決め手となった「プレゼン」

 

日経新聞社・御厨直樹さん

より審査の評価軸は、募集テーマによっても毎年異なる部分はありますが、共通して言えることは、プレゼン能力です。このチームのプレゼンのおもしろさ、伝え方の工夫はずば抜けて評判になっていましたよ。ネーミングセンスもそうですが、書類選考やプレゼンテーションで見る人の心をつかんでいると思います。

 
―当日のプレゼンテーションがすばらしかったと評判ですね
 
河内さん:プレゼンでも、処理の簡便さやスピード感を伝えたかったので、薬のCMなどを参考にした動画をつくりました!
 

fig-7
(画像提供:お茶の水女子大学Team hygienic)

 
服部さん:メッセージとしても、「人々の健康や安全を包み込みたい」という想いをしっかり伝えました。
 
―審査員からは、どのようなコメントをもらいましたか?
 
喜多さん:過去の特許をみても「今までにありそうで、なかった発想」だと言っていただけました。
 
河内さん:女性技術者の審査員の方から「精密製品を扱う工場で、作業員がおう吐した時にも有用。従業員、そして製品、企業を守ることにも繋がりますね」と言ってもらえたことが、とても印象に残っています。
 
牛房さん:ほかにも「カーペットでおう吐した場合はどうするのか」といった質問や、「次亜塩素酸ナトリウムは、高濃度になるほど分解されやすいため、別の消毒剤も検討してみてはどうか」といった指摘も受けました。具体的な改善点がみえて良かったです。
 
―すばり、リベンジは!?
 
みなさん:リベンジします!!
 
 
河内さん:テクノルネサンス・ジャパンでは、過去のアイデアを改善して再チャレンジすることが認められているので、来年は授業の枠ではなく、ぜひこのメンバーでリベンジしたいです!他のアイデア・コンテストにも挑戦し、経験を重ねることでプロジェクトの進め方も身につけていきたいと思っています。
 


番外編・ふだんのわたしたち ~お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科~

 
Team hygienicのメンバーが所属する人間・環境科学科では、人々の生活をとりまく身近な課題に対して、人間工学、環境工学、建築学、材料物性学、自然人類学など幅広い分野から理工学的な研究が行われています。そこで、普段はどのようなことを勉強しているのか、また将来の希望についても教えていただきました。
 
お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科のHPはこちら:http://www.eng.ocha.ac.jp/
 

fig-8

 
喜多さん(1年生):私は建築を志望して、この学科を選びました。建築に興味をもったきっかけは、実家の家を新しく建てるときに、家族の意向を反映してもらえたことに感動したことでした。1年生の後期になって、設計や製図の授業が始まったところです。模型も作ったりしています。
 
牛房さん(1年生):私は、自然人類学に興味があります。昔から、博物館に行くことや、化石が好きだったこともあり、1年生の授業で進化や解剖学についても学ぶようになって、さらにおもしろい分野だと感じています。
 
服部さん(3年生):研究室の配属はこれからですが、水の環境や水質に関する研究に携わりたいです。インターンシップがきっかけで、将来は下水道局や水道局で働きたいと考えています。
 
河内さん(4年生):居住環境学研究室に所属し、建築や街づくりの勉強をしています。卒業研究では、視覚障害者の人の歩行に関する調査をしています。今回のアイデアにも、人間工学や環境工学の視点を活かせたように、今後もアウトプットをしっかり意識していきたいと思います。
 
―みなさんの今後の活躍が楽しみです!来年のテクノルネサンスでも、ぜひリベンジを果たしてくださいね!
 
 
ライター プロフィール

profile

堀川 晃菜(Horikawa Akina)
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。